オランダでの体験
〜オランダの小児を取り巻く環境にふれて〜

米澤史恵

大阪大学医学部附属病院・兵庫県立看護大学大学院(千里RC推薦)

はじめに  

今回、このGSEの体験を通して、自分の職業分野のみならず、1人の人間として生きていく上でも必要で貴重な学びをすることができたと思います。心から、このプログラムに関わってくださった方々に感謝しています。今回の体験で得たことについて、述べていこうと思います。

オランダ出発までの期間において  

自分が、GSEのメンバーとしてオランダに行かせていただけるということが決定してから、ぽぽ出発までに4ヶ月間ありました。その間、主にプレゼンテーションの準備を兼ねて、他のメンバーとの交流をはかりました。その中で、他人を知るということ、自分を知ってもらうということについていろいろな方に教えてもらったように思います。また、プレゼンテーションを作り上げていく段階においては、「プレゼンテーションにおいて、自分ができることって何なんだろうか。」等、自分の役割について考える機会が多かったように思います。5週間日本を離れることで、その間の自分のおうべき役割・義務が担えないことによって、多くの方に迷惑をかけたことも忘れてはいけないと思います。

オランダでの学び

職業研修を通して…  

現地につくまでに、オランダのこと特に看護事情について知っておきたいと思い、情報収集を努力して行いました。しかし、オランダの情報を得ることはとても難しく、オランダでは自宅でのお産がポピュラーである、地域医療体制が整備されているなどのわずかの情報しか得られぬ まま現地に到着しました。「本などでオランダの情報を得ることは難しい。でも、今回オランダの看護事情などを実際に見たり聞いたりして知ることができるなんて、すごいことだ!いろんな事を知ろう!」という思いがありました。

職業研修場所として、以下の場所を訪問しました。
・総合病院2つ訪問(小児科病棟手術室を見学)
・地域で開業されている薬局ホームドクターのプラックティス
・高齢者ハウス ・小児保健センター 小学校での健康診断の見学
・自宅でお産をされた方のお宅 産後の女性の体操教室
・障害者の方のための施設・学校 ・ユースセンター
です。その他、ホストファミリーの方の好意によって、地域での理学療法について知ることができました。また、小学校やスペシャルスクールルに行き授業に参加し、子どもたちと交流を図ることができました。  まず、今回オランダの看護事情、特に地域医療における看護職者のかかわりについて述べていこうと思います。

まず、オランダと日本の人口動態を比較してみると、オランダの出生率が日本と比べ、高値であること、死亡率に関しては、日本の方が低い事がわかります。数字の上から見ると、オランダより日本の小児保健体制のほうがよいのではないかと思われると思います。確かに、数字の上ではそうなのですが、児童虐待や子どもの心の問題に焦点が当てられている今日、私は、小児保健体制の中身が大切だと思います。オランダの地域に根ざした小児保健体制において、日本に取り入れていくべきところもあるのではと思います。  

オランダの小児保健体制について、子どもの成長経過とともに見ていこうと思います。

誕生 約1/3のこどもが、自宅で助産師介助のもとで生まれます。自宅での出産率は、日本で0.1%(1997年)と、大きな違いがまずあります。助産師の数としては、日本もオランダもほぼ変わりなく、施設面 でも大差ないと思われます。「自宅で生んだのは、リラックスできるし、病院での医療は必要ではない。お産は、自然のことだから…」という、訪問させていただいた方の答えにもあるように、人々のお産に対する考え方の違いによるところが大きいと思いました。また、オランダにおいては医療保険を用いて、産後のケアも訪問看護婦によって行われており(保険の種類や家庭環境にもよるが、平均64時間のケアが提供、3〜8時間/日)、地域の中でお産をしてもその後のフォロー体制が整備されているという印象を受けました。訪問させていただいたお宅では、産婦さんの旦那さんも訪問看護婦と共に子どものお風呂介助をしたり、家事をされていました。オランダでは、夫は3日間有給休暇として妻のお産に合わせて休暇をとることが可能ということでした。産婦だけでなく、他の家族もお産に関われる体制になっていることも、将来の家族関係においてよい影響をもたらすと思われ、うらやましく思いました。実際に、お会いすることはできなかったのですが、助産師が、産後8日目頃に新生児や褥婦の診察をするために、地域看護婦(District nurse)が、生後5〜7日に子どもの検査のためと1ヵ月検診の説明も兼ねて訪問されるということです。

写真1 産婦と訪問看護婦

写真2 新たな生命と共に

生後1ヶ月〜4歳  子供専門の保健センターで、定期的にフォローされます。助産師から、出生時・産後の情報が、一枚の書類に書かれ保健所に伝えられます。それをもとに、保健センターで健診・育児相談(個室で行い、本の貸し出しなどもしている)・予防接種などが行われます。その結果 は、growth book(日本の母子健康手帳の子供のみの部分を扱った冊子。内容:健診・予防接種記録、育児ガイド。)とカルテに記載され、管理されます。健診時期は保健所によって違うということですが、Edeという町では、1、2、3、4、5、6、8、10、12、15ヶ月2歳、2歳6ヶ月、3歳、3歳9ヶ月というように、日本と比較するととても頻回にされていると思いました。地区ごとに、医師・ソーシャルワーカー・学校関係者・警察官・育児施設等のネットワークがあり、1回/6週定期的に会合を持ち、問題があればチームで対応されているということでした。

写真3小児保健センター前にて地域看護婦と
 

保健センターは、オープンな雰囲気の建物で、歯科医、薬局、スーパーの近くにあるため、定期的にフォローを受ける以外にも、予約なしに気軽に立ち寄れるようになっており、家族がちょっとした疑問や心配事など抱えている場合にすぐに解決しやすいのではないかと思いました。抱えている問題が大きくなる前に、他者の援助を受けたり、自分で解決策を得られやすいのではないかと思いました。  

カルテは、4歳以降になるとSchool doctor に渡されるということであり、ここでも情報の有効な伝達が行われていました。

4歳以降  オランダでは、4歳から小学校に行きます。そのため、4歳以降の子どもの健康管理は主に学校にて行われます。5、7、11歳時等、計6回、School doctorによって学校で健康診断が行われます。日本では、毎年行われており、それと比較すると、少ないのではないかと思われるでしょう。確かに、健康上の問題がなければ回数は少ないのですが、その内容が、日本での物と大きく違うように思います。オランダでは、生徒1人あたり、30分ほどかけて個室を用いて視力・聴力・体重・身長測定検診をされます。低年齢の児は、家人とともに受けます。家族の健康面 ・兄弟のこと・自宅での生活リズムについて、あらかじめ記入してもらったアンケート用紙をもとに医師と家人が話をし、必要があれば食事指導などもされます。また、予防接種カードを持参してもらい、接種できているかも確認されます。家人が来られなかった場合、体重などの結果 をカードに書いて、家人に知らせるために生徒に渡されます。健康上の問題があったり、家人と直接話をしたい場合は、School doctorが直接自宅に電話されます。日本のような集団での身体面のみの健診ではなく、身体面 と精神面をチェックされていると思いました。健診を大切にされていると思いました。仮に、健康上問題があると、School doctorが判断した場合、ホームドクターへの紹介状を出し、その結果をホームドクターから得られるように依頼もされます。健診の結果 は、健康診断カードに記載されると共に、学校の担任にも報告されます。あらかじめ、生徒にインフォームドコンセントの用紙を用いて許可を得ているということです。個人の情報に関して、1人1人の人権を重視し、しっかりと管理されていると思いました。健診結果 が書かれた健康診断カード(25歳まで保管)は、学校ではなくオフィスのある保健所で管理されているということです。  

このように、学校における保健における担い手は、School doctor でした。School doctor とは、日本語にすれば「校医」なのですが、日本のものとは全く違います。オランダのSchool doctor は、通常の医師になるための教育を受けた後2年間 School doctor になるために特別 な教育を受けます。今回お会いしたSchool doctor の方は、4つの学校を担当されていました。(担当生徒数140人)School doctor の協会(GGD内に)があり、その協会では、健康診断のみでなく、プロジェクトを立て、生徒に対して健康教育も行っています。プロジニクトとして、アルコール、ソフトドラッグがどのようなものであるか知識を生徒に与えたりされているということでした。時には、過去にハードドラッグを使用し中毒に陥ってしまった人による講演を開いたりするということです(もちろん、その方の許可を得た上で)。警察等も参加しチームで行われるということです。  

日本の学校には、保健室があり、養護教諭もいます。一方、オランダの学校には、簡単な処置セットがあるのみで、保健室・養護教諭というものは存在しません。先生のうち、けがの手当てについてなど単んだ人が簡単な応急処置をするということです。日本の学校での保健が主に、養護教諭によるところが大きいのに比べ、オランダではその役割をSchool doctor がになっているのではないだろうかと思いました。学校健診について、個人のプライバシーに配慮し、身体面 のみならず、その子を含む家族単位での精神面までのフォローが行われている点は、日本も採り入れていくべきではないかと思いました。

全体研修での学び

<オランダの子供の教育>

写真4 Queenユs birthdayの子どもたち
 

オランダに滞在していた間、4月30日Queenユs birthdayであったこともあり、多くの子どもたちが遊んでいる姿を見ることができました。Queenユs birthdayというのは、日本でいう天皇誕生日のような国民の休日です。その日は、多くの人々がお祭りの雰囲気にひたり、楽しみます。多くの子供たちが教会の前の広場に集まってゲームやフェイスペインティングをしてもらい猫になったりトラになったりして遊びます。運営は、ボランティアの子供や大人、警察官などによって行われています。  

そのほか、私は、ホストファミリー宅に子どもさんがいることもあって、オランダの子どもたちと一緒に遊んだり話したりすることができました。オランダでは、サッカーやホッケーが盛んなようで、大抵の子どもがチームに参加しています。大人も盛んに参加しています。また、自然が豊かなこと、坂がほとんどないこともあり、サイクリングも盛んです。しかし、近年、日本と同じく、子どもたちはポケモンのカードを集めたり、テレビゲームを盛んにしていて、室内での遊びが増えてきているようでした。その影響もあってか、子どもの肥満が増えてきているということです。

<学校教育 

オランダと日本の学校は、いくつかの点で大きく異なっています。まず、オランダの学校は、宗教によって3つの種類(カトリック・プロテスタント・Public)に分けられています。また、学校では、クラブ活動というものは存在せず、放課後、子どもたちはmusic schoo1等のart centerへお金(50%は、 local governmentが支給)を払って個人的に行ったり、サッカーやホッケーの地域のチームでの練習に参加したり、ボランティアをして過ごしています。また、学校で植物を育てたり、動物を飼ったりせず、プールも学内にないとのことでした。クラブ活動がない、動植物を学内では育てないということを聞いたとき、「オランダの教育に対する考え方って、なんて狭いんだろう。クラブ活動や、動物などを育てていくことで、子どもって沢山学ぶものなんじやないの。」と正直思いました。でも、オランダではそれらに代わるものとして、ボランティアがあるということを知り、納得しました。そのボランティア活動も、自分たちで運営しているということを知り、日本の学校でのクラブ活動よりも意味があると思いました。というのも、日本のクラブ活動は、先生の指導があったりと、本当の意味で子ども自身が運営しているとはいえないからです。  

学校では、全国共通の試験がされ、スコアをみてフォローされるということで、学習障害、行動障害があると判断されると教育委員会で審議され、スペシャルスクールに転校することもあるということでした。近年益々、移民の子どもが増えてきており、言語の習得などに支障をきたすことも多いということです。日本のように特別 な援助を必要とする子どものための教室が、小学校に含まれてはいないということです。やはり、統合教育の必要性や、位 置的な利便性も考慮して、小学校の内部にそのような教室を設けようという動きが出てきているということです。数年後、オランダを再び訪れたとき、そのように変化していることを期待します。

<オランダの生活文化>

今回、ホームステイさせていただいた家庭で、家族の一員として生活できたことは、とてもよかったと思います。オランダの家族というものがどういうものなのかを知ることができたからです。(もちろん、それだけが全てではありませんが。)オランダと日本の生活文化の大きな違いは、2つあると思いました。近隣の人との付き合い方と、父親(夫)母親(妻)の役割分担の仕方です。  

オランダに限らず、西欧諸国はそうなのかもしれませんが、パーティーを開いて、友人・近所の人たちみんなで楽しむことが多いように思いました。その楽しみ方も、気負わず自然体でリラックスできるものでした。オランダの人たちは、パーティーを通 して、情報交換をしたり、コミュニケーションをはかり、人との付き合いをうまくしていると思いました。そうすることで、自分の視野を広げたり、自分というものをより理解していくのではないかと思いました。子どもにとっても、パーティーに参加することで、社交性が身につくのだろうと思いました。日本も、気楽にパーティーをするという文化に少しずつ変化しているようですが、外観にこだわってしまいがちな傾向にあるように思います。  

父親(夫)母親(妻)の役割分担の仕方については、父親も母親と同じように家事に参加しているのを見、とてもうらやましく思いました。日本は、世界的に見ても、夫の家事における参加時間はごく短時間です。確か、日本の夫は平均約10分/週家事をしており、その一方、オランダは、平均約5時間半/週家事に夫は時間を割いているということです。社会の動きとしては、日本もオランダのようになっていくとは思うのですが、とてもスローぺースです。いつも、私は、自分の周囲からまず意識改革をと思っています。

オランダでの学びをもとに将来に向けて  

オランダを離れ、早1ヶ月が経とうとしています。帰国後、自分の果すべき課題の多さに戸惑っている現状ですが、オランダと日本の比較をするなかで、オランダの優れた点・日本の優れた点が見えてきたように思います。文化の差があるため、全てを同じように比較することはできませんが、オランダの優れていると感じた点を日本に採り入れていけたらと思います。まずは、自分の生活の中からですけれども。そうすることで、自分の中でまた周囲に変化をもたらすことができると思います。