大阪ちゃやまちロータリークラブ推薦、大阪市経済局勤務
はじめに
この度私は大阪ちゃやまちロータリークラブの推薦を頂き、GSEメンバ−の一員として英国1050地区を訪問させていただきました。今回の経験は私の職業分野のみならず、一人の人間としての生き方、考え方においても貴重な経験となるものでした。 心からこのプログラムを支えてくださった皆様方に感謝いたします。
1050地区の紹介
私たちの訪れた1050地区は、グレ−タ−マンチェスタ−の南部地区とその南に位置するチェシャ−カウンティそしてスト−ク・オン・トレントの北部地区から構成されています。マンチェスタ−市は、グレ−タ−マンチェスタ−の一部で、グレ−タ−マンチェスタ−はこのマンチェスタ−市と九つの郡から構成されています。私たちが一般に漠然とマンチェスタ−と呼ぶ地域はこのグレ−タ−マンチェスタ−全部を指します。
マンチェスタ−といえば産業革命の発祥の地という言葉が真っ先に思いつきます。訪問する迄は織物工場や製造所が林立しているものと想像していましたが現在では織物産業はマンチェスタ−全産業の1%未満となっており、現在のマンチェスタ−はサ−ビス産業を中心とした第三次産業が盛んな都市として中心街には近代的なビルが林立し商業都市に変貌しています。一方では数百年前に建てられた教会や家も街のいたる処で大切に保存され、新旧の建物が融合したとても情緒のある街です。
上の写真は19世紀に建造された古い鉄道駅を改装し現在は国際見本市会場になっています。
現在マンチェスタ−はイギリス第二の都市で、昼も夜も眠らない活動的な都市です。しかし、マンチェスタ−から車で10分も走ると、牧草地や畑が広がり牛や羊が放牧されたのどかな景色が現れます。一年前に口蹄疫のために、90%以上の羊が薬殺されたとは思えないくらい羊が放牧されていました。
チェシャ−カウンティは酪農の盛んな土地で、チ−ズの生産業が有名です。ス−パ−マ−ケットではチ−ズが100種類以上棚に陳列されており、食事の最後にデザ−ト代わりにチ−ズを食べるのがイギリスの習慣です。
チェシャ−チ−ズはイギリスでのチ−ズ品評会において1位を何度も受賞しているこの地区の名産品です。 しかしながら日本と同じくイギリスでも農業は衰退の傾向にあり、農産業の保護が社会問題の一つになっています。またスト−ク・オン・トレントの伝統産業である陶磁器産業界(世界的に有名なロイヤルダルトン、ウェッジウッド等の窯元がある)も、最近では販売の停滞で苦しんでいるとのことでした。
お世話になった家族およびクラブについて
滞在中、6家族にホ−ムステイさせていただき、イギリスの家庭生活を体験させていただきました。どの家族もとても温かく親切にしてくださいました。心から感謝します。
イギリスといえば、「紅茶にスコ−ン」といった印象で、あるお世話になったお家では2時間ごとに異なったお茶を飲み、伝統的な生活スタイルを楽しんでいるご家族がありました。しかしながら最近では朝食時やティ−タイムに紅茶の代わりにコ−ヒ−をいただく人が増えてきています。コ−ヒ−の立て方は日本のようにドリップ式ではなくて、
紅茶と同じように紅茶ポットに直接挽いたコ−ヒ−豆を入れてお湯を注いで入れます。
此処はマンチェスタ−地方だから、ベッカムのいるマンチェスタ−ユナイテッドのファンが多いのだろうと思っていましたが、実はとんでもない間違いでした。 マンチェスタ−地方には、プレミアリ−グとしては、ユナイテッドのほかにマンチェスタ−シティがあり、さらに他のリ−グまで合わせると沢山のチ−ムが存在し、地元の人たちは熱心に自分の好きな個々のチ−ムを応援しています。子供のころから応援している人が多く、ただ単にユナイテッドの話ばかりできないことに気づきました。
また、ロ−タリアンの方々にパブによく連れて行っていただきました。パブはお酒を飲むところですが、最近は飲み物だけでなく食事も提供するスタイルのお店が増えています。パブの名前はその土地の有名人や産物、歴史的事項から名づけられていることが多く、例えば「ウェリントン」という名前のパブに連れて行っていただきましたが、この名前の由来はナポレオンを破ったウェリントン将軍から名づけられたとのことでした。その他にも狩猟が盛んな街だったので、鳥の名前や動物の名前をつけたパブもたくさんありました。
サッカ−のプレミアムリ−グやヨ−ロピアンカップの試合が行われる日には、パブでTV放映されイギリス人がジョッキを片手にみんなで応援している姿をよく見かけました。
夜は、ロ−タリ−クラブの例会に出席しました。チ−ムメンバ−でそれぞれの自己紹介をはじめ、大阪の経済や歴史、名物、見所などをロ−タリアンご夫妻に紹介しました。蛸焼きの写真や満員電車の写真には興味津々の模様でした。
RTN御家族同伴でのGSE TEAM 歓迎パ−ティ 私の GSE PRESENTATION の一齣
ブリティッシュ イングリッシュ
私たち日本人は、普段アメリカ英語に慣れ親しんでいることを強く実感しました。少しイギリス英語と米国英語の違いについて説明させていただきます。
米国英語 イギリス英語
サッカー フットボール
トランク(車の) ブ−ツ
パンツ トラウザ−ズ
ガソリン ペトロ−ル
イギリス人は自分たちの英語に誇りを持っており、自分たちの英語が本当の英語だと信じており、私が米国英語を話すと−「その英語は間違っている。」と何度も指摘され訂正させられました。今でも英国人の心の中には大英帝国の栄光の時代の誇りが息づいていると感じました。
住宅事情
私たちの訪れた1050地区では、マンチェスタ−旧市街の中心地域よりも郊外の住宅地域の地価が高いといった傾向が見られました(日本と全く逆)。これは、産業革命時に煤煙による公害がひどかった為に資産家が空気のきれいな郊外へ移動した事が理由です。現在でも都心の一部では地価が郊外住宅地域の100分の1といったところもあり、それが原因で都心がますますスラム化してしまうといった社会問題となっています。対策の一つにそのような地区にある住宅を自治体が買い取り改造あるいは建て替えて公営住宅にする事で優良な住宅を供給して街を活性化するといった施策を行っています。
また一方では日本と違い新しい家よりも古い家が好まれる傾向にあります。19〜20世紀初頭に建てられた煉瓦造りの家は歴史や温かみが感じられる為に大変好まれており、外壁や内装を丁寧に手入れして住んでいます。
最近では、写真のようなサンル−ムが大変人気があり、新聞広告にサンル−ムの販売がよく掲載されているのを見受けました。この地方は大変寒いために、サンル−ムで日光を浴び庭園を眺めながら食事を楽しむ事ができるといった所が人気の秘訣の様です。
イギリスの産業
私は現在大阪市経済局に勤務しております。大阪は中小企業の街で長引く不況に大変苦しんでおります。そこで、イギリスにおける産業の振興に向けた活性化対策などについて勉強させていただきました。
マンチェスタ−地方でビジネスを行う利点
マンチェスタ−はロンドンに次ぐ第2の都市で、次の利点があげられます。
・ 豊富な労働力(マンチェスタ−の中心から30マイル以内に700万人以上の人が居住しており、そのうちの65%の人口は45歳以下の若年層である。)
・ 交通網の整備
・ マンチェスタ−国際空港の整備
2本の滑走路が整備されておりヨ−ロッパ主要都市だけでなくアメリカの主要都市を始め、海外の主要都市に直行便が運行され、マンチェスタ−国際空港は年間4000万人以上の人が利用することが可能である。又イギリス国内の主要都市とも高速道路網でつながっており、アクセスがよく、整備されている。
・レベルの高い4つの総合大学があり、産学共同で産業の発展に寄与している。
・賃金水準や地価がロンドン周辺に比較して廉価である。
このような利点を活かして国内外の企業を誘致しようとする施策が自治体を中心に積極的に行われていました。
MIDAS(マイダス)
マンチェスタ−商工会議所の外郭団体の一つです。マンチェスタ−地方でビジネスを立ち上げたいと考えている国内外の企業を積極的に誘致する仕事を行っています。
また、マンチェスタ−地方で立派に成功している企業が海外に進出する場合も様々なサポ−トを行っています。
企業誘致施策
滞在中マイダスの他にも市役所や商工会議所を訪れました。グレ−タ−マンチェスタ−の南部のカウンティでは、マイダスと協力して企業誘致に取り組んでいました。また、その他の地域では、自治体だけでなく民間企業に誘致事業を委託して企業誘致に積極的に取り組んでいる場合をよく見受けました。
イギリスの企業誘致の方法は、主に自治体や委託企業が買い上げた空き農地や未利用地を安い値段で企業に貸与しそこでビジネスをしてもらうという方法です。大阪市では進出企業に補助金を交付することが主流ですがイギリスでは土地の上に建物を建てて賃借したり、更にはその土地及び建物を売却したりする場合が主流です。廃校や古い製粉所などの老朽化した建物等を事務所に改築して貸している場合もあります。これは、現在大阪市が旧水道局庁舎で行っている施策と類似しています。
今や企業誘致はどこの自治体においても積極的に進められている施策のため、自治体同士がかなり熾烈な争いとなっています。顧客の要望に迅速に対応ができる様にハ−ド、ソフト、の両面において様々なサ−ビスを準備しています。例えば、マンチェスタ−地方に新たに支店や工場を新設したいと考えている企業の多くは、すぐに入居してビジネスをはじめたいと考えている場合が多いため、企業の要望を可能にするために様々なタイプのオフィスを用意しています。
例えば事務所スペ−スだけから、机と椅子が用意された事務所、パソコン、電話等のOA機器が全て用意されている事務所。サイズも一人用から5〜60人は入ることができる事務所まで様々なタイプの事務所を企業の要望に沿って提供することで誘致を有利に進めています。
また、イギリスでも日本と同じように「転がる石に苔むさず」といった格言を尊ぶ慣習があり、何度も事務所を移転する会社は不安定であるといったイメージがあります。
同じ建物の中にさまざまな大きさ・タイプの部屋を用意することで、最初は小さい事務所からはじめた企業が成功して大きい事務所に移転したい場合にも住所や電話番号を変えず同じ建物の中で移転する事で外見上は移転していないように見せることを可能にする事で新規企業を誘致し易くしています。
更にオフィスのみならず、倉庫や工場として利用できるように改造している建物も同時に用意されています。例えば、大手ス−パ−が大量の土地を借りて物流センタ−にしている場合や、製薬会社の製剤工場がある場合も見受けられました。このようにあらゆるタイプの施設を準備することで企業誘致を有利に進める工夫を行っています。
企業側からの高い要望の一つに、移転先が高速の乗り口まで1マイル以内にあるという立地条件があります。車が交通の第一手段であるイギリスにとっては、これは絶対条件です。物流のためのみでなく、従業員の通勤手段が車通勤の為に立地条件は企業にとって重要なファクタ−です。その為にある自治体では、ヨ−ロピアン
ファンド(これはEUが出す補助金)を利用して高速道路出入口を特別に増設したケ−スもあります。
当然会社を運営していくうえでのサポ−トも自治体が行っています。例えば、会社を経営していく上でのコンサルティング業務や、ビジネス規模拡大のためのビジネスマッチングなども自治体側が無料で行っています。
大企業に対しては、安い賃料で土地及び建物を貸す替わりにその地域の住民を何%以上雇用するといった条件付契約を自治体と結んでいる場合もあります。税金を企業誘致に使用した見返りに地元の雇用機会を確保する狙いがあります。
手続きの簡素化、迅速化
これらの交渉の殆どをインタ−ネットで行うことが可能です。 自治体の土地及び建物の賃貸情報や売出の状況はホ−ムペ−ジや広報誌に掲載され誰でも容易に情報を閲覧することができます。希望者は情報を基にインタ−ネット上で申し込みをすることが可能です。
自治体側は企業の希望条件にあった土地や物件を複数紹介し、それら情報の中から選択する方式になっています。インタ−ネットを利用することで遠方の希望者もわざわざ現地に出向くことなく契約を完了することができます。早い場合はその日のうちに契約が成立することもあるとのことです。
このイギリスにおける企業誘致の考え方は、公務員も民間企業同様サ−ビスを提供する団体であるといった理念から成り立っているものと思います。日本にもこの施策はもちろんサ−ビス企業としての精神も持ち帰りたいと思います。
さいごに
イギリスに滞在中、本当にたくさんの方々との出会いを得ることができました。異なった言葉でも一番大切なのは心で、譬え言葉が充分に通じなくても、心は通じる事が出来るという事を実感しました。人のぬくもりを実感した旅であると思います。
LIVERPOOL BEATLES 記念館前で
また、常に新しいものを積極的に取り入れながら古いものも同時に大切にするイギリス人の温故知新の精神を我々日本人も大いに見習いたいと思います。
最後になりますが、今回研修の機会を与えていただきサポートして下さった国際ロ−タリ−の大阪2660地区とイギリス1050地区のみなさま、研修の実施に協力して下さった現地の市役所、商工会議所のみなさま、こころよく私を五週間にも渉って送り出してくださった大阪市経済局のみなさま、そして出発前から今日に至るまで何かとお世話になったGSE団長を始め団員のみなさま(このメンバ−でなければ、これほど楽しい研修ではなかったでしょう!)に厚くお礼を申し上げます。
MANCHESTER 国際空港でお見送りのROTARIANご夫妻と共に