(枚方市都市環境部環境公害課、枚方くずはRC派遣)
クリーン&グリーンカントリー。ニュージーランドは、広大な自然に恵まれた美しい国です。このような国に40日以上も滞在し、さまざまな体験ができましたことは、職業上のみならず一個人としても、大変貴重なものであったと感謝しております。
私は、大阪府の枚方市役所で環境公害課に勤務しており、環境行政に携わっています。こうした立場から、ニュージーランドにおける環境保全の現状について、私見も交えて報告をしたいと思います。
ニュージーランドは行政改革の国であり、環境行政に於いても地方行政の自主自立が要求されています。これは、地方の独自性を反映させ易いという利点と、国からの金銭的補助が皆無であるという二面性を意味しています。
国全体としての環境行政は、1984年の行政改革後、1991年から環境保全計画(Resource Management Act)が進められています。環境行政に於いても他の行政手法と同様に、国が基本構想および地方自治体の役割を定義した基本法を提示した上で、実施計画は各地方行政機関が地域特性を反映させた独自のもの(Regional Plan)を作成し実行しています。実施計画には米国環境保護局(U. S. EPA )やオーストラリア等の環境基準・指針を準用し、技術的にも充分高い設定がなされています。
いわゆる環境保全の他にも、自然保護局(DOC : Department of Conservation)が国内の自然環境を保護指定する役割を担っており、国土の3分の1以上が保護指定を受けているそうです。ニュージーランドでは、湖や河川を除くほとんどの土地が個人所有となっているため、個人所有地であっても保護指定がかけられている事が多々見られました。このような場合でも、所有者は保護指定に従いそのままの状態で自然環境の保全に努めています。むしろ、自宅の裏庭に広大な自然林を所有していることを楽しんでいるという風でした。また、工場の建設や土地開発にも自然保護局との調整が必要なため、自然保護局も間接的ながら環境規制に大きな効果を果たしているようです。
・持続可能性(Sustainable)
・バランス感覚
・受益者負担の発想
GSE研修期間中の環境関係の説明や視察の場面で、また、ホームステイでのホストとの会話からも、この3つのキーワードが出てくる事が良くありました。
1)持続可能性
持続可能性という単語については、成文化された環境保全法や実施計画の中にも頻繁に出てきますし、エネルギー問題でも、国全体が水力発電に多く依存している理由として、それが将来にわたって持続可能であることを挙げています。広大な自然環境に対しての現在の人口規模自体が将来に対する持続可能条件であるという私見も耳にする事がありましたが、まさしくニュージーランドの環境が持続可能を標榜する事の出来る大きな理由であることは明かです。
豊富な自然資源は、持続可能な状態のままでも多くの外貨をニュージーランドにもたらしています。年々増加する海外からの観光客。また、映画ジュラシックパークの続編(ロストワールド)の為の風景撮影がニュージーランドのミルフォードで行われたそうです。観光資源としての自然環境。それを認識している事も、環境保全が受け入れられ易い一理由であると感じられました。
2)バランス感覚
環境問題における持続可能な条件とは、環境保全と産業活動の、良好なバランスでしょう。
環境保全と雇用確保のための産業育成はどの国に於いてもしばしば相反する事ですが、両者を如何にバランスさせるかが重要であるという意見が行政側からも、市民側からも多く聞かれました。ニュージーランドでは、グリーンピースを中心とした環境保護団体による圧力や環境保全政策が強いため、新しい事業・工場を開始するに当たっては環境保全のための準備調整が非常に厳しく、多くの時間と労力が必要となっています。例えば、我々が視察したある工場(木材チップから繊維合板を作るRayonier社の工場)の場合、事業計画に4年の準備期間を要し、役所の環境保全計画に適合するために207項目に及ぶ公害防止協定が結ばれているそうです。40日の滞在期間中に、環境保全計画があまりに厳しすぎるので見直す必要があるという声も聞かれましたが、現状でのバランスは、良く釣合がとられていると感じられました。
主要産業である農業の、環境に対する影響については、近年の経済的な理由による農業形態の変化にともなって徐々に現れてきているようでした。水質保全に対する影響は、乳牛の放牧について大きいそうですが、現在は羊の収益性が鈍化しているために、伝統的な羊の放牧から、より収益性の高い乳製品をメインにする乳牛の放牧へと変化する傾向にあり、外貨の約7割を担う農業と環境保全のバランスをどう取って行くかが今後の課題として挙げられていました。
この件については意識の高い牧場主も多く、我々が視察したロータリアンの経営する牧場では、水源付近の放牧地を役所に供託して水質保全にあてるなど、役所主導では実現しにくい対応策も、牧場主側の良識や環境保全に対する理解により協調的に実現しているケースも見られました。このような相互理解と協調が得られる事は尊敬に値する事であり、ニュージーランドの豊かさを感じさせられました。
また、二酸化炭素の排出による地球温暖化の対策として、二酸化炭素を多量に排出する事業者は、排出量とバランスするのに必要なだけの植林を行うか林業に投資する義務を負います。近年、ニュージーランドでは林業も盛んになっており、環境保全策が積極的に新しい産業とリンクしていることは、実施効果を高めるのに都合がよく、ポスト羊牧業を模索し出したニュージーランドに於いて、産業育成と環境保全のバランスの良い、実践的な政策であると感じました。
3)受益者負担の原則
地方行政の仕事としては、地方道路の建設・管理、上水道、下水道、公園等の施設建設・管理が主なものですが、国からの補助は全く無く、地域に所在する企業からの法人税も無いため、行政サービスの運営は土地税を中心とした、地方税のみで賄われています。年度毎の予算に必要な税を徴収できるよう毎年税率が変更され、税金は、地方行政サービスを受ける負担金として納められています。
したがって、上・下水道などの運営についても、受益者負担の原則が徹底されています。同じ行政区内であっても地区によって水源が異なる場合や、利用者数が異なる場合は、上・下水道料金が大きく異なっていました。個人的に意見を聞いた限りでは、上下水道料金にかかわらず、住民の側での受益者負担に対する理解は一般的なものであるようでした。ただし、施設の改善費用についても受益者負担が問われるため、突然、料金が大幅値上げされる事もあり得ます(新聞記事)。この傾向は、利用者(受益者)数の少ない小さな都市で顕著であり、地方行政の運営にも、受益者負担と言う形で市場原理が働いていることになります。需要の少ない(人口の少ない)地区での行政サービスは、スケールメリット上不利になるため、高率の地方税が必要となります。また、市民は税の負担感から、より経費の少なくて済む(と、思われている)小さな役所を望む傾向にあり、役所の統合が要求される理由となっています。このため、役所では事業遂行のための予算(=受益者負担による税金)と、事業内容・結果のバランスが適正である事が重要課題であり、どの役所でも、このバランスには非常に神経を使っ ていると説明をしてくれました。
国からの補助金が皆無の、受益者負担の大原則をもつ地方行政では、人口(=税収)の確保と雇用確保は重要であり、雇用確保という魅力を持つ工場・企業誘致と環境保全のバランスが今後どのように取られて行くのでしょうか。
人口が少ない故に、持続可能を掲げ得る環境行政。そして、人口が少ない故に受益者負担の地方行政予算を圧迫している現状。これらをどうバランスさせていくのか。産業形態が徐々に変化してゆく予感を呈したこれからのニュージーランドの10年は、日本にとって注目に値すると感じました。
最後になりましたが、今回のGSE研修でお世話になった方々、また、このような機会を提供して下さったGSE委員会の皆様に御礼を申し上げます。