アーカンソーの思い出

佐藤玲子

(大阪RC推薦、大阪市教育委員会事務局スポーツ課勤務)

●はじめに

 アーカンソー州での約1カ月間のホームステイ体験は、私にとってかけがえのない思い出とアメリカ文化・杜会について学ぷ絶好の機会となりました。現地のホスト家庭は皆ロ一タリークラプの会員の方でしたが、英語力がないため適切な説明ができない私の話を辛抱強く聞いていただいたうえ、有意義な研修になるよういろいろとアドバイスをいただき、ほんとうにありがたかったです。

 また、ロータリークラブのプロジェクトであったため、一般の観光旅行では経験できないすばらしいプログラムが用意され、奉仕の精神と国際親善の目的のもとに、得難い体験をさせていただきました。

 以下、アーカンソーでのなつかしい思い出をできるだけ順序だててご紹介したいと思います。

●ロータリークラブ<RC>例会訪問

 RC例会訪間時には、必ず30分程度のチームプレゼンテーションの時間が設定されており、時にはスピーチ内容についての質疑応答の時間が設けられることもありました。

◇チームプレゼンテーション

 このたびのGSEチームの交換にあたっては、とりわけ医療・教育について見識を深めるという目的でメンバーの選考が行われたため、チームメンバーは医師(胸部専門外科医)である庄村さん、ミキハウスの幼児図書出版部門での勤務を希望されている金重さん、マーケティング会社で採用・人事評価、財務部門の専務取締役として活躍されている阪上さん、そして大阪市教育委員会スポーツ課に勤務する公務員の私と、多彩な職種の構成で、いきおい、個人スピーチの内容も変化に富んだものとなり、想像以上の歓迎を受けることができました。また、総勢5名のチームの団長として、大阪そねざきRCの創設者でいらっしゃいます野村様が参加され、大阪地区RCの代表として約20カ所のRCを私たちとともにご訪問いただき、プレゼンテーション冒頭の大阪地区のRC紹介に加えてチームスピーチにもご参加いただきました。また、約1カ月間の滞在期間半ばで出席させていただいた第6150地区の地区大会の会場においては、なつかしいアーカンソーのGSEメンバーと再会することができ、また、約200人の出席者の前で、チームとしてプレゼンテーションを行う機会を与えられ、たいへんよい経験となりました 。

 私たちのチームプレゼンテーションは、先に当地区を訪問していたアーカンソーGSEチームのものを参考にして、あらかじめ日本でチームメンバー紹介も兼ねた地区紹介ビデオを作成していきました。ビデオの映像にしたがって各個人が英語でスピーチを行ったため、時間に正確でめりはりのきいたスピーチを心がけることができ、さらに、プロの方が編集したそのビデオは美しい映像がたいへん好評でした。ただ、1種類のビデオを20カ所以上で放映したため、同じプレゼンテーションを何度も見ることになってしまった方には申し訳ない思いもしましたが・・・。

◇プレゼンテーションでのエピソード

 個人スピーチでは、各自が自分の家族と職業について説明しました。スピーチ終了後の質問時間では、アメリカ人にとって最も問題意識と関心の深い医療の現状に質問が集中し、医師の庄村さんが的確に受け答えしてくださったので、私たちチームは現地でたいへん評判が良かったです。失敗に終わったものの、クリントン大統領夫人のヒラリー氏が中心となって政府医療保険導入プロジェクトを進められていたことは皆さんの記億に新しいことと思いますが、患者の個人負担が高いアメリカでは、開胸手術であっても3〜4日程度で退院する症例がほとんどで、日本とは対照的であるそうです。スポーツ振興についてはまったく問題意識がないため質問される恐れがなく、庄村さんの話が楽しみで、質問コーナーは私にとってむしろ楽しい時間でした。

 余談になりますが、RCの例会にはチームの制服である紺のブレザーを着て出席することが多かったのですが、そのせいもあってか、私はほとんどの会場でハイティーン(16才〜19才)にまちがわれました。日本人は欧米人に若く見られるとはいいますが、私の年齢についての誤解が毎回出席者の皆さんの大爆笑を誘うのはとても気恥ずかしかったです。

●アーカンソー州の特徴

 アーカンソー州はアメリカの南部ミシシッピー川の西岸に位置し、主要な産業は農業で、特に米の生産量では全米一です。また、マッカーサー元帥の生誕地であり、クリントン大統領の出身地として知られています。総人口は大阪市の人口と同程度の約250万人ですが、面積は大阪市の数百倍あります。所得水準・教育水準ともに全米では低い評価にあり、産業の振興と教育水準アップが大きな課題でありました。印象としては、のんびりした田舎町という感じで、豊かな自然に恵まれています。人種としては、近隣のテネシー州やジョージア州ではほとんどが黒人という人種構成になるのですが、白人:黒人が7:3程度です。住民の気質は保守的で伝統を重んじ、たいへん友好的で穏やかでした。

●ホームステイ体験

 私たちは、このアーカンソー州においてそれぞれ別々の家庭にわかれ、8つの家庭でホームステイを体験しました。ホームステイは私にとってもちろん初めての経験で、しかも一つの家庭に最長で4日、最短で2日といった非常に慌ただしいスケジュールで、家族構成もそれぞれの家庭でまったく異なっていたため、正直いって気疲れもしましたが、毎日が新しい発見の連続で新鮮でした。どの家庭でもたいへん歓迎していただき、車がないと移動できないという、広大な国土を持ち、高度にモータリゼーションが発達したアメリカ社会において、ホスト家庭をはじめとするロ一タリークラブの皆さんの努力のおかげでスムーズな移動と有意義な研修を行うことができました。

◇ホームステイ先での交流を通じて得たもの

 特に、私のホスト家庭は、教育関係の仕事をされている家庭が半数以上で、ホスト家庭との交流を通じてアメリカの教育制度についての理解を深めることができたのも大きな収穫です。

 学校を舞台にした少年犯罪の深刻化(例えば銃を使った事件や麻薬取引等)は社会問題になっており、都心部の学校では校門に金属探知機を設置したり、麻薬密売人の侵入を防ぐため警備員を置いたりしている等の話も聞いてたいへん驚きました。チルドレン・ギャングと呼ばれる集団がダウンタウンのストリートで日常的に発砲行為や麻薬取引を行ったりしているという話も、少年の非行行為という次元を超えた犯罪行為で、ニューヨーク等の大都市では政府の努力もあって犯罪件数は減っているといいますが、アメリカは日本よりずっと危険な国であるという印象は消えませんでした。

 また、未成年の犯罪者でもテレビや新聞で氏名も顔写真も報道されているのには、日米の文化の違いを強く感じました。未成年の犯罪者であっても「更生させる」というより「悪人を処罰する」という意見の方が多数派だそうです。神戸の少年の事件を機に少年法改正について審議がかまびすしいところですが、「少年保護」の考え方のまったくないアメリカのやり方は全く対極に位置するものとして印象深いものがありました。

◇ホームパーティー

 さらに、例会のほかに8回ものホームパーティーを開催いただき、典型的なアメリカ料理と他のホスト家庭やロータリークラブ会員との交流を楽しむこともできました。

 ホームパーティーは、屋外のパーティーは男性が料理し、屋内のパーティーは女性が料理を持ち寄ります。男性も料理に慣れているのでたいへん手際がよく、「男子厨房に入らず」の日本とは大違いでした。日本でもキャンプが流行していますが、料理については女性がするという意識が強いようなので、アメリカのやり方も見習ってほしいと思いました。

●苦労したこと

◇朝食例会

 各ロ一タリークラブの例会においては、私たちのチームのプレゼンテーションのために30分もの時間を提供していただき、質疑応答などを通じて親睦と理解を深めることができ、貴重な経験を得ることができました。ただ、行ってみて仰天したのは、“early

Rotary-club meeting”という「朝食例会」で、何と朝7時からミーティングが始まるのです。寝起きの頭で英語を理解するのは日本語よりもずっと難しいのはご想像のとおりで、大変苦労しました。

◇英語

 英語については南部訛りのあるイングリッシュで、到着直後の1週問は会話にたいへん苦労しました。が、日を追うごとに抵抗感が徐々になくなり、ジョークまじりの陽気な会話を楽しめるようになっていったのは不思議です。アーカンソーの方々は概して話し好きで、一日のスケジュールを終えて帰宅してからもホスト家庭の方々との話がはずんで、11時を過ぎても”I will go to bed”というタイミングがつかめず、特に前述の“early

 Rotary-club meeting”の前日などは、両方とも時計を見ておおあわてで寝るということもしばしばでした。

●職業研修について

 個人的な職業研修として、私は、教育制度とスポーツ振興について調査研究する機会をいただきました。

◇裁判所と法律事務所の訪問

 職業研修で困ったのは、法学部出身ということがプロフィールの中で紹介されていたため、アメリカのロースクール出身者と同じ感覚で法律の専門家としての扱いを受け、連邦裁判所や法律事務所を職業研修として訪問するようにスケジュールされていたことです。日本の少年非行の現状や犯罪捜査方法、犯罪傾向、死刑制度の是非、中絶問題等について弁護士の方から質問されたのには何の準備もしていなかったため専門用語を理解するのにたいへん苦労しましたし、赤面する思いもしばしばでした。

 その中で、教育問題に関連して印象に残っているのが、「少年犯罪の被告人の取り扱いの違い」です。日本では、20歳になるまでは、犯罪を行っても未成年者は少年として保護されるため、メディア報道からも保護されますし、裁判も非公開で処理され、更生させるために再教青を施すという法体系になっていたかと思います。ところが、アメリカでは、16歳から成人として扱われるうえ、ハイスクールの生徒であっても殺人の容疑者として扱われた段階からテレビメディアで実名・写真付きで報道され、自分のアリバイについて説明するようリポーターから求められたりしています。私の訪問した法律事務所の弁護士は、スクールカウンセラーである夫人の意見の影響もあって、少なくとも少年は容疑者の段階では報道されるべきではないと考えていらしやったうえ、たとえ犯罪を犯したとしても「厳しく処罰する」というより「良い大人として更生できるよう再教育を施し、自分の犯した罪を認識させ、社会復帰できるよう努力すべきである」という日本のやり方にたいへん関心をもってくださいました。

◇学校教育

 学校教育については、教育課程・制度とも各市町村の教育委員会で決定することができるため、地域の人種構成や教育レベルにあわせて多様なやり方をとっていらっしゃることが特に印象に残りました。例えば、ジョーンズボロ市では、児童の学習レベルを統一する目的で、全市の6年生だけを一校に集め”6th grade Academic Center”として運営しています。また、大学まで入学試駿がないため、生徒はのびのびと学習していました。各教室は20名ほどで構成されており、教師は生徒の関心を引き出すためにいろいろと授業内容を工夫しています。ある小学校で実施されていた国際理解のクラスは、先生の手作りの教材のすばらしさもさることながら、各家庭からもその国にまつわるおみやげ等が提供されていて、身近に世界を感じることができるための工夫が随所に感じられました。また、幼稚園から各校にコンピューターが設置されていたのにも感心しました。国の方針等で決定される最低限の学校設備は州税を財源に設置されますが、各市町村の公立学校の設備の充実にあたっては、市町村の目的税である“educationl tax”でまかなわれるため、住民の投票で税の導入そのものの是非が決定されるとのことです。

◇スポーツ・プロモーション

 スポ一ツ振興については、プロ・スポーツがたいへん盛んなことは周知のとおりですが、学校のスポーツ施設についても充実しており、環境のすばらしさに感動しました。

 また、滞在期間中にプロ野球の大リーグを観戦し、一流のプレーを楽しませていただいたことはよい思い出です。日曜日の午後のゲームで、スタジアムには約4万人のファンがつめかけていましたが、地元チームのセントルイス・カーディナルスのファンばかりで、試合も大勝で対戦相手のフロリダ・マリーンズがさびしそうでした。カーディナルスは、今年大リーグのホームラン記録を塗り替えたマグワイアーの所属チームですが、マグワイアーのスタジアム記録となる特大ホームランが前日の土曜日だったのは残念です。

 以上で、雑ぱくではございますが、アーカンソー州を訪問しての帰国報告とさせていただきます。最後になりましたが、推薦クラブとしてご支援くださいました大阪ロータリークラブに改めて感謝申し上げますとともに、GSE委員長として私たちのチームに対して適切なアドバイスをいただいた松岡様に心からお礼申しあげます。