大阪心斎橋ロータリークラブ推薦、大阪市福島消防署勤務
イギリスと言われて、この、古くは400年前から関わりのある国の事を以外にも、詳しく知らない自分に気付きました。
世界の隅々まで進出し、植民地を広げた大英帝国時代。産業革命発祥の地マンチェスター。未だ衰える事無いビートルズの音楽。女王陛下の国....。
どれも学生時代に習った様な古い話ばかりで、最近のイギリスに関する話題で記憶に新しいのはサッカーの「ベッカム選手」の事ぐらい....。
1ヶ月も滞在するにあたり、必要な情報や役に立ちそうな事といえば、あまりにも乏しいのが現状でした。
ロンドンの年間平均気温9.7℃(大阪16.5℃)、降雨量753@(大阪1350@)、英国最高峰ベンネヴィス山1343m(富士山3776m)最長河川セヴァーン川354H(利根川322H)、そして何よりもイギリスの英語は、我々が習った英語とは「ちょっと違うらしい」という事を頭に詰め込み、その他諸々の物品でいっぱいになったカバンに汗しつつ、関西国際空港を後にしました。
イングラント地方の印象
まだ残暑の厳しかった大阪から、この地に降り立った第一印象は「涼しい!」。例年に無い好天候が続き、全く雨にも遭わず、まるで日本の秋の様な温暖な日々に恵まれ、全日程を快適に過ごす事が出来ました。
植生は日本と極めて似ており、柳やポプラそしてドングリなどを見かけました。郊外の公園には野生のリスがたわむれ、ホストファミリー宅の庭で野生のキツネやハリネズミを見かけた事もありました。庭は本場「イングリッシュ・ガーデン」。美しく、手入れも行き届いています。
町並みは、ほとんど煉瓦造スレート葺の一戸建て若しくは、セミ・デタッチトと呼ばれる二戸一建の住宅で構成されています。築100年を越える住宅も珍しくありません。使える部分はそのまま残し、内装をリニューアルして住み続ける。古い長屋を建て壊し、マンションを乱立させている大阪とは、明らかに風景が異なります。
リフォームした宅内で、使われなくなった暖炉跡にも、暖炉型ストーブをはめ込み、新しい中にも古い物を残す工夫を忘れません。
良い物を、永く、美しく。消費文化に侵された我々日本人に、学ぶべき点が、数多くある様に思われました。
イングランド地方の食スタイル
私は、一人暮らしや共同生活の経験はありましたが、ホームステイはまったくの初体験で、この歳になってこんな貴重な経験が出来るとは、夢にも思いませんでした。
職場でしばしば食事の調理を担当する私(消防署は24時間勤務の為、署内で自炊している部署が多い)は、特にイギリスの家庭料理についても興味をもっていました。
全部で6家庭にお世話になりましたが、例会を晩に行うクラブが多かった為、残念ながら自分のホストファミリー宅で夕食を共に出来たのは、たった4回だけで、今ひとつレパートリーを増やすには至りませんでした。この少ない経験と、概ね共にすることが出来た朝食、パブやホテルのレストランでの食事を通じて、英国全般的傾向として感じた事ですが、「食」に関する考え方が日本とは違う様に思われました。
最も大きな違いは、「盛りつけ」と「味付け」に関する考え方です。
英国では日本で言うところの「取り皿」に相当する様な物は無く、メインから付け合わせ、主食のジャガイモに至るまで、すべて大皿一枚に盛りつけます。この為、料理の味付けは必要最低限でしかありません。なぜなら、日本食の様に個別に繊細な味付けを施しても、結局、同じ皿の中で「まざってしまう」からです。
つまり微妙な塩やこしょうの加減は,食べる直前や、食べている最中に自分でやらなければ、それこそ「マズい事」になってしまいます。 例えば付け合わせの野菜には、しばしば茹でたインゲン豆なども出ましたが、これが日本風に「ゴマ和え」などに調理されていたとします。そして、メイン料理が「ラムのミントソース添え」だったとしたら....。ゴマ和えとミントソースが混ざって、不気味な味のハーモニーを醸し出す事でしょう。
自分の皿の料理を最終的に自分好みに味付けして食べる、これが英国流の食スタイルの様です。もしこの事実を知らずに,あなたが何の味付けもせずに付け合わせのインゲン豆を食べたら、「英国の食事はまずい」と思うかもしれません。
イングランド地方の台所
どの家庭のキッチンでも、あちこちに美しい絵皿が飾られ、冷蔵庫からゴミ箱までが美しく収納されており、一見してどれが冷蔵庫の扉なのか分かりません。朝食の準備を手伝ったりする時に冷蔵庫を探して、あちこちの戸棚を開ける事も、しばしばありました。ただ、流し台は、日本のワンルームマンション並みで、そのキッチンの規模から比べると非常に小さく、一度、日本食を披露(肉ジャガの様な物などを調理)した時などには、やや不便に感じました。けれども、コンロやグリル類は非常に充実しており、茹でる、焼く、蒸す、焙る、揚げる、温めるをすべて一つのレンジ台で、しかも同時進行が可能となっていました。
この台所で作られる料理は、想像以上に手早く調理されます。流し台が狭いので、「カット野菜」を多用する傾向が強いのは、致し方有りません。スーパーで売られているカット野菜の類は、日本の比ではありませんでした。
調理の一例を挙げますと、皮付きの小さいジャガイモを鍋で茹でながら、その蒸気を利用して一口大にカットされたカリフラワーを鍋の上で蒸します。別の鍋で、付け合わせのニンジンやインゲン豆などを茹で、フライパンでメインの肉料理に焼き色を付け、そのままフライパンごとオーブンへ投入します。空いたコンロで、今度は主食であるチップス(フライドポテト)を揚げ始めます。蒸し上がったカリフラワーに粉チーズを掛け、これもオーブンに入れます。チップスを揚げ終わる頃には、すべての料理がほぼ完成です。調理時間は2、30分というところでしょうか。メインの肉料理をご主人が切り分けている間に、フライパンに残った肉汁を使ってソースを作ります。すべての料理を食卓に運び、キャンドルに灯を付け、ワインを開ければ、楽しいディナーの始まりです。
ちなみに、このディナーを披露してくださった共稼ぎの家庭などは「うちは週末しか食事を作らない」という方針でした。女性の社会進出が進んでいる為か、他のホスト家庭の台所も稼働率が低そうでしたし、日本の様な食事を毎日作る、という訳では無く、外食や簡単な物で済ませてしまう家庭も多い様でした。ついでに男性が担当する家事についても機会があるごとに質問したところ、「食器洗い機に食器を入れる」、「食器を食器棚にしまう」、などが主で、日本と同様、家事はまだまだ女性の仕事と位置づけられている様子で、このあたりに高い離婚率の原因の一端が、有る様に思われました。
驚きの皿洗い
大改築の為、一時的に借家に住んでいた1家庭を除いて、すべてのホスト家庭に食器洗い機が完備され、食器をあまり手洗いするのを見る機会は少なかったのですが、ある時、ワイングラスを手洗いしているのを見ていると、洗剤で洗った後、まだ表面に泡がいっぱい付いたままの状態で、ふきんで拭いて食器棚に片づけてしまったのです。この姿を見た時は、正直、大変驚きました。
最初は、この家庭だけかと思っていましたが、その後、別のホスト家庭でも、泡の付いたままのコップやお皿をシンク脇の水切りでそのまま干している姿を、2度3度と目撃し、イギリスでは食器洗いのすすぎ行程が無いらしい事が判明しました。
どうも水道事情が良くなかった時代の名残りだと思うのですが、日本の様に流水で完全に洗剤を洗い流す習慣は無い様です。前述の、料理を大皿一枚に盛りつけるのも、ひょっとしたら、このあたりにルーツがあるのでは?
確かに、2階のシャワールームのお湯の出が良くない家庭もありましたし、職業研修で訪れた消防署でも、消火栓の状態は良くない、との話を聞きましたので、依然、水道事情は日本ほど良くない感じです。
イングランド自動車事情
移動手段は、ほとんどがホストファミリー等の自家用車でした。車に乗せて頂いていると、すぐに道路の様子が日本とよく似ている事に気付きます。 日本と同じく左側通行の上、目に付く道路標識の表示や意味が日本とほぼ同じなのです。これならばと、すぐにでも英国で運転出来そうな気がしてきましたが、交差点に差し掛かると、日本では見慣れない「ランダバウト(roundabout)」というロータリー式交差点が待ちかまえていました。
これは、交差点の中心に丸い花壇があり、その周りに沿って道路が作られています。ここを時計回りに回って右左折、直進を行うのです。道を間違えた時に、Uターンする事も簡単に出来ます。交通量の多い場所以外に信号機は無いので、日本の様に信号渋滞も無く、快適に走行する事が出来ますが、慣れるまでは進入するタイミングが、ちょっと難しそうでした。
交通量の多いランダバウトには、信号機が設置されていましたが、その表示も少し変わっています。 日本の信号は、赤から突然青に変わりますが、英国では、青になる前にも、「黄色」が点灯するのです。「もう信号が変わるかな?」と、進行方向以外の信号を覗き込まなくてもいいのは、意外に便利です。
ランダバウトから出る時には、方向指示器(indicators)を出しますが、ここでもちょっと注意が必要です。英国も左側通行なので、当然、運転席が右側の「右ハンドル」ですが、国産車を含め、ほとんどの車の方向指示器レバーが左側に付いているのです。
英国内の自動車産業は衰退し、最後の砦と思われいた「ロールス・ロイス」までもが外国資本の傘下となったぐらいですから、英国内の国産車は激減し、 ドイツ、フランスなどの海外メーカー車が増加。EU中、英国だけが右ハンドルなので、海外メーカーは、ハンドルを右側に移動させる変更のみで、わざわざ英国のためだけに、ウインカーとワイパーを付け替える事はしませんでした。
海外メーカー車が、英国内に増えてくるにつれ、だんだんと英国ドライバーは慣れてしまい、今では「右ハンドル、左ウインカー」が定着してしまった様で、日本車でさえも「右ハンドル、左ウインカー」の車を販売する事態となっていました。(最新型のトヨタカローラは、左ウインカーでした)
英国で車を運転する時には、方向指示器に注意しましょう。間違ってワイパーを動かす事の無い様に!
驚きの改札システム
車だけで無く、メトロと呼ばれる地元のローカル電車に乗って移動する機会もありました。改札システムが、非常に合理的で、駅には改札も駅員も全くおらず、ホームに自動券売機があるだけです。行き先のボタンと片道か往復かを押すと、必要な料金が表示され、お金を入れるとレシートみたいな切符が出てきます。それを持って電車に乗るのですが、電車は全くのワンマンカーで、切符を全然チェックしません。うまくいけば田舎の無人駅の様にただ乗りできるのですが、時々、抜き打ちで検札係がポリスを連れて乗ってくる事があります。このとき、切符が無いと、捕まって罰金と懲役刑があるとの事。それが怖いので、みんな切符を買うという驚きのシステム。合理的&低コストという面では、日本の自動改札よりも優れていると思いました。
1050地区ロータリーの様子
日本のロータリークラブの例会に、あまり出席した経験がありませんので、違いについては良くは分かりませんでしたが、はっきりとした違いとして、開会の30分ぐらい前からメイン会場に併設、若しくは別室のバーで、各自ビールやワインなど飲み物を片手に、歓談している姿をどの例会でも必ず見ました。
我々もこの歓談に必ず参加していたのですが、この時の飲み物として、私は、地元の味に親しもうと、努めて「ローカルビアー」をオーダーしました。
英国のビールは大別すると、「ラガー」と「ビター」分かれるそうで、「ラガー」は日本で普通に飲まれているビールとほぼ同じ。「ビター」は色が濃く、濁っており「ローカルビアー」というと100%これでした。味も銘柄により様々ですが、同じ銘柄でも、地方により味が違うとの事。日本でも知られた「ギネスビール」は、水の関係でスコットランドで作られた物が一番おいしい、という話も聞きました。
プレゼンテーションを控えている時は、「シャンディ」と呼ばれるビールとレモネードを半々で作る飲み物を注文していました。口当たりも良く、アルコール度も控えめなので、お薦めです。
私達のプレゼンテーションは、持参した「2004年国際大会プロモーションビデオ」の映写と、各メンバーが大阪の風土、歴史、観光スポット、食べ物、の四つのパートに分かれ、パワーポイントによる描写を交えて説明しました。その後、最後の締めとして、中西団長が古来からの日英関係や托鉢行脚とロータリー精神についてのスピーチを行いました。どのクラブのメンバーも、聞きづらい英語に真剣に耳を傾け、笑いの場面では笑い、終始、親交的な雰囲気に「プレゼンテーションがうまくいくだろうか?」と、いう不安も吹き飛んでしまいました。
地区大会では、何か日本的なパフォーマンスを披露しようと、出発前からメンバー全員で随分頭を悩ませましたが、中西団長のアイデアで節分の「豆まき」をする事に決定し、鬼の面や小袋入りの豆菓子などを日本から準備して行きました。
地区ガバナーとGSE委員長にも「鬼」の役で特別出演して頂き、リハーサル無しのぶっつけ本番でしたが、寸劇風に舞台構成し、歌舞伎等で使用する「紙製の蜘蛛の糸」を披露したりして、まずまずの出来だったと思います。
職業研修の成果
職業研修では、GREATER MANCHESTER COUNTY FIRE SERVICE 及びCHESHIRE FIRE SERVICE 管轄内の各消防署や関係諸機関、STOCKPORT
AMBULANCE STATION, CHESHIRE POLICE SEARCH TEAM、 英国陸軍第一兵站大隊爆発物処理班と、大別すると5カ所を訪問させて頂きました。
英国の消防は、日本で言うところの都道府県単位で(日本は市町村単位)で実施されており、救急業務が含まれていません。救急業務は、NHS(ナショナル・ヘルス・サービス)トラストと呼ばれる公的医療機関が担当し、まったくの別部門です。NHSの一部局としてAMBULANCE SERVICEがあり、救急車のみが配置された消防署ならぬ「救急署」が存在していました。
英国消防の様子
消防業務は、救急活動を除けば日本とほぼ同様の、
1.消火活動
2.交通事故などにおける救助活動
3.ガス等、危険物の漏洩への対応活動
4.火災予防の為の宣伝・広報活動
5.ボランティア等、地域住民への初期消火技術の普及啓発
ですが、特にその環境や住宅事情の相違から出場(消防では出動の事を出場といいます)態勢について、若干の違いが見られます。 日本とは違い、ほとんどの住宅が煉瓦造りか、石造りの為、燃え広がりにくい事もあり、通常の住宅火災の場合、まずは2台の消防車が出場する計画となっていました。
英国の消防車は、日本の標準的な車より大型で、前述の水道事情が悪い事もあり、1800リットルの水を積載、6名が乗車し、救助用の機材も装備して、救助活動も行います。
大阪市内の場合、一般住宅で火災が発生すれば、消防車5台、救助車2台、梯子車1台、救急車1台、指揮車1台の計10台が出場し、住宅密集地等、延焼拡大する危険性が大きい地域へは、さらに増強されます。救助活動は、オレンジ色のユニフォームを着た、救助専門の救助隊が専用の救助車両で行います。通常の消防車には、4名が乗車し、水は積載していません。放水は、道路に埋設された「消火栓」からの水を車載ポンプで加圧して、行うのです。
次に、私が日本と最も大きく違うと思ったのが、「COMMAND CAR(司令車)」です。
これは、火災現場で指揮、統制を行う担当者が乗る車で、日本の指揮車にあたる車ですが、どこから見ても普通の自家用車です。実は英国では、ある階級(司令)以上になると、自分の車に無線機、サイレン、赤色灯(イギリスは青色)、その他必要な資機材を積載し、覆面パトカーならぬ、「覆面消防車」とするのです。この車で消防署に出勤し、火事があれば、パトライトを屋根に装着、サイレンを鳴らして出場します。
勤務が終わって家に帰っても、大規模な災害が発生すると、たとえ休みの日でも呼び出され(この点は日本でも同じ)直接、自宅からサイレンを鳴らして出場するとの事でした。これならば、どこに居ても素早く火災現場へ向かう事が出来ますし、車両の維持管理・整備費用も節約出来ます。又しても、英国の合理的工夫を垣間見た気がしました。
ただし、持ち主曰く、どこに居ても出場の可能性があるので、全然休んだ気がしないとの事でした。どこの国でも、中間管理職は「つらい」様です。
私は、この「司令車」に同乗し、車の持ち主である「司令」に各消防署などを案内して頂いていたのですが、途中、実際の火災が2回発生した為、そのままいっしょに出場しました。
1回目は、レジンを取り扱う繊維関係の工場でしたが、幸いスプリンクラーが作動し、到着した頃には、すでに消えていました。 2回目はワゴン車1台が燃える火事でした。この火事に、消防車1台が出場したのですが、なんと、この消防車は、火災現場到着目前に、交差点で別普通乗用車と、衝突事故を起こしてしまったのです。この為、急遽、消防車の増強要請があり、私が同乗していた「司令車」も出場となったのでした。
我々が到着時には、すでに火災は消し止められ、衝突した乗用車の女性ドライバーが、救急車に収容されるところで、幸い、消防車のダメージは少なく、女性ドライバーも軽症でした。英国の消防車は、6名乗車なので、2名が消火に当たり、残り4名が救出・応急処置に当たった模様です。
ちなみに、この時の様子をお別れパーティの時に、日本の消防車との違いを比較しつつスピーチしました。日本の消防車の乗車メンバーは、4名の為、もし、同じ状況になったら、消火か救助か、どちらを先に優先するかを選択しなければならないと....。私なら、救助を優先するでしょう。なぜなら、その車には、若くて美しい女性が乗っていたからです、というオチを付けたところ、会場は大爆笑となり、予想以上の反応に、ちょっと照れくさい思いをしました。なお、大阪市では、車両火災に救助車と救急車も同時に出場しますので、ご心配なく。
英国救急車への同乗
STOCKPORT AMBULANCE STATION(救急署)への訪問は、訪問先が未定だった日に、急遽手配して頂きました。訪問を手配して頂いたロータリアンが、NHSの関係者だった為、救急車に同乗して出場する(同乗実習)という、貴重な体験をする事が出来ました。
この日は、中西団長も同行していたのですが、救急署に到着すると同時に、私が同乗する救急車に出場指令が入り、自己紹介もそこそこに私は救急車に乗って出場し、中西団長は残りました。その後、救急署に戻る間も無く、次々と救急指令が入り、救急署に戻れたのは昼頃でした。戻ってみると、中西団長の姿がありません。なんと、中西団長も別の救急車に乗って出動してしまっていたのです。
日本では、医療関係者以外、救急車で同乗実習するという事は、まず、あり得ません。私は団長の乗る救急車が、重傷患者やCPA(心肺停止)患者に遭遇しないかと、少し心配していました。昼過ぎ、ようやく顔を合わす事が出来た中西団長は、私の心配をよそに、私よりも貴重な経験が出来たと、満足な御様子でした。
NHSの一部門という事もあり、救急車に積載されている医薬品や救命医療器具が、日本よりも充実しているばかりでなく、搬送先の病院もNHSの為、受け入れ態勢もスムーズに見受けられました。ただし、出場頻度やその内容については、「非常に日本と似通っている」と感じました。
この地域の救急も、大阪市域と同じく「救急件数の増加と隊員の労務管理」に頭を悩ませており、過去の救急要請のデータ分析に基づき、曜日別・時間帯別に稼働救急車の数を増減させるという工夫をしていました。
救急件数の増加に伴って、救急車とそれに伴う隊員数を増やすのには限度があり、その限度内でいかに救急要請に応じていくか?昨年末、大阪市内の1日の救急件数が過去最大の700件台の大台に乗りました。当然2002年中の救急件数も過去最大の17万8349件。このままのペースで増え続ければ、119番しても、「只今、救急車はすべて出動中です。しばらくお待ち下さい。」という事態になるかもしれません。英国の工夫が、私の目には画期的な物に見えました。しかし、救急車があっても、搬送先の病院が無ければ何もなりませんが....。
対テロ対策
「放火やテロなどの犯罪が絡んだ大規模災害」への対処方法を研究する為、警察及び軍関係への訪問をアレンジして頂きました。
CHESHIRE POLICEには、1996年にGSEメンバーとして来日(第2780地区・神奈川)した事のある、マーチン・ベーカー氏が勤務しており、彼の手配によりCHESHIRE
POLICE SEARCH TEAM(捜索チーム)、 英国陸軍第一兵站大隊爆発物処理班を訪問しました。
SEARCH TEAMはテロの予告電話があった場合、各種大型イベント、VIP来訪時等の爆弾捜索、行方不明者等の手がかり捜索など、捜索全般を担当しているとの事でした。英国陸軍第一兵站大隊の爆発物処理班では、テロリストがよく使用する各種ブービートラップ(仕掛け爆弾)の講義と、爆発物処理ロボットのデモンストレーションを見学しました。これらの訪問により、実際の爆発物捜索手順、犯人の手かがりを数多く得る為の爆発物処理の方法など、非常に興味深い情報を得る事が出来ました。
学童教育
GREATER MANCHESTER COUNTY FIRE SERVICE訪問中、小学生向け「危機管理講習会」とも言うべきプログラムを見学するチャンスがありました。
これは、英国陸軍が場所と建物を提供し、消防・救急・警察・電気関係者が各々担当ブースを作り、スタッフを派遣。学校から小学生を1学年ごと呼び寄せ、合同で講習を行うものです。この日は、日本で2、3年生ぐらいにあたる小学生がバスで訪れ、順々に火災発生時の脱出方法、簡単な救命処置(気道確保、助けを呼ぶ)、警報機の作動方法と緊急電話(999)のかけ方、電気工事中の場所(英国は電線が地中に埋設されているので、工事中は子供でも手が届き危険)と危険防止策について、楽しく学んでいました。青少年の教育ケアプログラムに定評のある英国ならではものと、深く感心させられました。
終わりに
1ヶ月という、短い期間ではありましたが、全日程を終了した現在の感想は「イギリスが好きになりました」。偽らざる気持ちです。
やや円安だった事もあり、ビールとウェッジウッド以外は、見る物すべてが「割高」で、街の至る所に犯罪監視用テレビカメラが設置され、ホストファミリーの家には必ず「警報システム」が....。決して住むのに最適な環境だとは思えませんでしたが、チャンスがあれば、又、英国に訪れてみたいと思います。
私自身、この理由についてまだ整理出来ていませんが、どうやら、この経験を通じて「英国の人々」が好きになったみたいです。私達と接した英国の人々は、どうでしたでしょうか?日本に興味を持ったり、日本の事が好きになって頂けてたら、幸いに思います。
職業研修では、「消防に国境なし」と、いう認識を新たにしました。 「より多くの生命を救い、より多くの苦痛をやわらげ、そして、少しでも被害を小さくしたい。」たとえ言葉が通じなくても、同じ「こころざし」で通じ合える仲間が、世界中に存在する。この事は、私の今後の消防人生にとって、大きな励みとなるでしょう。
最後になりましたが、中西団長を始めチームメイトの太呉さん、佐野さん、小池さん、ホストファミリーの皆様、両国ロータリークラブの関係者一同様、そして職業研修先消防、救急、警察、英国陸軍の関係者、その他訪問先でお世話になった英国の人々に感謝すると共に、厚くお礼申し上げます。ありがとうございました。