アメリカの地方自治とコミュニティ

松本 仁孝

(KK松甚営業担当、大阪天満橋RC推薦)

 まず初めに、このプログラムにご推薦くださった大阪天満橋ロータリークラブおよびロータリアンの鈴木富治先生、全団員が大変お世話になり父親のようにやさしくご指導いただき、その上80有余時間ものビデオをとって下さった松岡団長、素晴らしい研修の機会を与えて下さった国際ロータリー第266地区の皆様、また渡米中私たち団員のために忙しい時間をさいて、そして訪問先等、時間単位のプログラムを作成し同行して下さった第769地区の関係各位およびロータリーの皆様、特に5週間私たちを我が子・兄弟同然のようにお世話いただきましたホストファミリーに心から感謝を申し上げます。

 ホームステイでは、夕食をいただきながら家族団らんのときにお互いの文化・生活習慣等の話題について語り、民間外交に努めました。そして、1週間のプログラムが終わり、次の訪問地へ移動するとき、お世話になった家族との別れは一段とさびしくなり、目頭があつくなりました。

 今回私たちは、行政・司法・議会・学校教育・社会福祉施設・病院・企業等々を毎日朝8時頃からタ刻5時まで充実した研修をし、息をつく暇もないほどハードでしたが、どの日のスケジュールを今、回想しても、非常に有益で新鮮で興味深く、感激の連続でした。通常では見学させていただけないようなところや本音での話し等々を伺うことができ、改めて国際ロータリーの組織の偉大さを痛感しました。

 さて、5週間の研修の中から、特に私が興味をもった地方自治・ボランティア・コミュニティについて報告します。

住民本位のサービス型行政

 アメリカの行政は、大きく合衆国政府・州政府・郡・市(町)行政府に別れます。研修滞在中、私たちは、州議会、4都市の市役所、保安官事務所、2警察署を訪れる機会に恵まれました。

 ここでは直接住民の日常生活に関係のある市(町)の役割について述べたいと思います。市(町)のおもな住民へのサービスとして警察・消防・道路管理・ゴミ処理・水道・リクレーション・斎場(墓地)・都市計画に関わるゾーニング等があります。

 市(町)長および市(町)会議員は住民の直接選挙により2年おきに選ばれます。ごくまれですが市(町)長が議員の互選によって選ばれることもあります。再任は妨げられないが、平均的な在任期間は、長のつく方で6〜8年、議員では10年ぐらいだそうです。またこれらの方々はボランティアであり、本業は食料品店経営者・たばこ製造会社の役員・ホテル経営者等であったりします。定例議会は毎月1回、夜に行われ、臨時議会は必要に応じて開かれます。定例議会では、通常、事務市長(City Manager)が仕上げた議案に対する審議が主です。市(町)の規模にもよりますが、議員数は少なく、私たちが訪れたところでは4人〜9人でした。また、年間所得もボランティアのため少なく、市(町)長で$2,500〜$20,000、議員においては半分の$1,250〜$10,000で、日本におけるこれらの長や議員の所得とは数段とかけはなれています。

 さて、現在どの市(町)においても抱えている大きな間題はゴミ処理です。大量消費国アメリカと日本の異なるところは、広大な土地があるため地上投棄を行っている点です。しかし反面、処理場にてハイテク機器を利用し金属・紙・生ゴミに分別している。また、曜日を決めて分別収集しているところも多く、ある市における全体のリサイクル率は60〜70%であると聞きました。リサイクルできるアルミニウム缶、スチール缶、古紙、ペットボトル等は、黒のゴミ袋にいれるのではなく、リサイクル専用のブルーの袋に入れるようにしていました。

 我が大阪市においては、分別収集どころか、なんでもかんでもいっしょに焼却しているのが現状です。資源を持たない日本でこそ、もっと有効に資源を再利用する方法を考える必要があります。そのためには、現在月1回行っている粗大ゴミの日にリサイクルできるものを分別して出すとか、地域にある公園又は地域集会所のところにリサイクル分別収集所を設置するのも一つの手段であると思います。

 また、今回の研修中、車中からよく目についた道路標識に「Adopt a Highway」があります。これは教会、団体、企業等が道路の特定区間(約2マイル)の清掃を州政府に対して、2年間にわたり少なくとも3ケ月間に1度はゴミ集め(例えば空ビン・空き缶の除去)を約束して実行しているのです。集めたゴミは、指定されたオレンジ色のゴミ袋に入れて道端に置いておくと、州が責任を持って処分してくれるシステムで、ここ最近始まった制度です。この作業にあたっては、道路管理当局から団体名の入った「Adopt a Highway」の標識が掲げられ、清掃中交通事故に遇わないよう、よく目立つオレンジ色のベストや、ガラス・金属片などから手を保護する手袋が貸与されています。

 これらの他、市民ボランティアの人々の労力奉仕で余った該当支出金は、次年度へ繰越し、次年度の住民税の軽滅を計る等、本当のサービスが行われています。わが国のように年度末近くになると予算の消化のため公共工事が始まり、次年度予算確保に走る体質は見直しが必要だと思います。また、市従業者の仕事を取り上げてしまうといってボランティアの申し出を断る日本の地方自治体の体質とは大違いであります。

オープンな議会

 私たちは、4つの市(町)議会・州議会を訪れましたが、どこの議会へいっても審議会(委員会)を含めて公開されており、市民も傍聴できると聞きました。

 州都ローリーの州議会では、リッチモンド郡選出のカンドゥス州上院議員が、議会の施設や委員会を案内してくださり、本会議場では同じ郡選出のダレス州下院議員と共に私たちGSEチームを紹介してくださいました。

 そして、第l週目のリーズヴィルでお世話になったロツキンハム郡選出でロータリアンである、サンディ・サンズ州上院議員は、このプログラムの果たす意義について「単に人を派遣するのではなく、人間同志の交流を通じて相手国の事情・生活習慣・文化を学び、国際的な視野にたって相互理解に基ずく世界平和に貢献する」と議会で述べられたのがとても印象的で、私は深く感激しました。

 この議場で目についたのは、ぺージャー(Pager)でした。あまり耳慣れない言葉ですが、ページャーの役目は委員会・本会議場内における議員間同志の書類運びをする人のことです。驚くべきことに彼らは、皆高校生で、学校の必修科目である「アメリカの政治」の授業の一貫として一定期間(1ケ月間)交代で実地研修を行いながら学んでいるとのことでした。日本では、若者の政治離れがささやかれる昨今、高校生のときから実地研修を通じて政治に関心を持たせることが、政治離れを食い止める最善の方法ではないでしょうか。

 120名の下院議会では、着座席におけるボタンによる議案の採決方法が取られていました。これは採決投票待ち時間(20秒間)内にYesなら緑、Noなら赤のボタンを押して、瞬時にどの議員が賛成・反対に投票したかパネル標示される方法で、投票結果はすべてコンピューター管理されて正式議事記録として残されていました。日本では、この方法を用いている自治体は少ないようです。国政レベルにおける採決による時間延ばし、いわゆる堂々めぐりや牛歩作戦等がなくなるので、議会運営もスムーズに行われるのではないでしょうか。また、委員会における審議に充分な時間が取れると思います。

ボランティア活動

 私たちGSEメンバーは、5週間すべてロータリアンのご家庭に泊めていただき、その上、毎日集合場所までの送り迎えして項きました。訪問先へ同行していただいた家族以外のロータリアンの人々は、私たちが受けたもっとも身近なボランティアでした。

 次に、私たちが滞在中見かけた多くのボランティア活動を紹介します。ハイウェイにおけるゴミ集め、コミュニティ劇場における入場整理、病院での運搬業務、グリーンズボロ歴史博物館における展示資料整理等をお手伝いする人々、彼らは全くの無償で働いているのでした。

 病院での運搬をされている方は、サザンパイン地区で余生を送るために東部よりリタイヤーして引っ越してこられたロータリアンでした。悠々自適の生活を送っておられますが何か社会に奉仕したいとの信念で、週に一回病院で働いておられました。また、ウインストン・セーラムのバプテスト病院の受付のおばさんもボランティアで、どこの病院でも500人以上のボランティアの人々が登録されていて、都合のよい時間に奉仕されています。

 アメリカでは、公共の場所が多くのボランティア活動を気軽に受け入れて奉仕がなされています。この根底には、西部開拓時代と同じようなフロンティア精神(お互いに助け合う心)が、今なお根強くはりめぐらされてアメリカに生き続けています。

 私も学生時代から、青少年育成活動に参加している一人ですが、まだ日本の現状はその活動が気軽に受けいれられません。また、今後の老齢化社会における高齢者の人たちのボランティアに対して、働く場所の提供や施策を行政側が配慮して地域のコミュニティを活発化し、住みやすい地域社会を構築できるようにしたいものです。

コミュニティと共に

 今回の研修で私たちGSEチームのキー・ワードは、「コミュニティ」であります。

 日本語では、「地域社会」と訳されますが、アメリカの小学校教科書によると「私たち個人を取り囲んでいる社会」と解釈され、それは最小単位の家族に始まり、近隣、学校、市、郡、州、国、世界へと広がる社会を指しています。

 それでは、どの様な活動がコミュニティに対し貢献しているかを二、三紹介します。

1.チンクア・ペン(Chinqua Penn)の管理運営費の拠出

 ノース・カロライナ州の特産物であるタバコで巨大な富を築きあげたペン家は、マンション(豪邸)と共にたばこのプランテーションを備えたものをノース・カロライナ大学に寄贈され、一般に公開されていますが、安い入場料のみでは、維持管理ができないので、地域社会の人々がお金を出し合って基金を作り、それを運用して管理費用の一部に当て、美しい清潔な観光名所をつくりあげています。

2.公共の建物・備品に対する寄付

 私たちが訪れた、ハムレツト市の図書館は数年前に増築されました。市当局としては全額負担するのほ大変苦しいので、市民が中心となってタツパウェアーの販売を行い、その利益金を建築貴用に充当して、自分たちの要求を地域ぐるみで協力し、助け合って完成をみたものでした。

 また、TJベル・プライマリー・スクールでは、学校遊具購入の資金集めのためにPTO(PTA)と共同で、バーベキュー・パーティを開催していました。その日の挨拶言葉は「学校へ行った?」で、口々に語りかけ合っていました。わが町のように市の助成金に頼っているのではなく地域を挙げての応援で、誰もが参加でき協力して、楽しみながら目標を達成するアイデアがとても新鮮な印象でした。

 以上のように活発なコミュニティがアメリカ社会に浸透していて、うらやましい限りでした。

企業の地域への貢献

 松岡団長がホームステイされたリーズヴィルでの家庭のご主人の職業は、天然ガスをテキサスからニュー・ヨークまで送る会社の中継責任者の方です。中継所の周りは、林におおわれていますが加圧ポンブから低周波公害が発生するため、近隣の住民との関係をうまく保つためいろいろと気を使っておられます。Adopt a Highwayをされたり、林に小鳥の巣箱を設置したりするなど色々と地城社会に貢献されています。

 毎年4月半ばに行われる、PGAのグリーンズボロ・オープンでは、各ホールの運営を特定の企業・団体が責任を持って協力し、盛大な行事を成功裡に終了させているようです。 私たちが、訪れた在米日系某企業も毎年協力しておられるのですが、つい先日社長が交代され新任社長は、あまり乗り気ではないようです。昨年まで社員に対し、有給でボランティアを募ったところ多数参加されましたが、今年は無給になったため応募者はゼロでした。そのため急遽、幹部社員が対応されるとのことを聞きました。

 以上見聞きした例ですが、小さな事柄から大きな事柄まで、住民や団体、企業がコミュニティと密接な関係を持つことが重要であると痛感しました。また、アメリカにおいては、企業はいかにコミュニティに認めてもらうかによって経営が成功するかどうかを、肌身で感じました。