行き届いた職業研修はロータリーならではのこと

谷川徹治

(神戸屋レストラン勤務、大阪北RC推薦)

 我々がロータリークラブのGSEプログラムで、アメリカのノースカロライナを訪れたのは、湾岸戦争も大詰めをむかえ日本が世界の中の日本としての役割をせまられた、たいへん緊迫した空気の漂う2月の末のことでした。当然アメリカの人々の日本人に対する感情が大変悪いことが予想されていました。しかし実際にノースカロライナに着いてみると、ロータリークラブのGSE委員の方々と、我々のホストファミリーの方々が我々に気をつかってくれてのことだと思うのですが、対日感情の悪さを感じさせることはあつませんでした。しかし、毎日自然と目に入るテレビや新聞の湾岸戦争に関するニユースや住宅街のいたる所につけられた黄色いリボン(戦士として、自分の家族を送った人が無事の帰還を願う印)を見て、不安な思いを募らせることが多かったのも事実です。

 訪問の約1週間後にあったホームパーティの途中で多国籍軍の勝利を伝えるニュースが入り、皆で喜び合ったことも我々の記憶に新しいことです。

 アメリカ(ノースカロライナ)にGSEチームとして行く前は、本音として、反面教師として学ぶぺき点を多く期待していました。アメリカには、Made in Japanがあふれかえり、戦後(第二次世界大戦)をふりかえり、日本の目標であったアメリカに追いつき追い越し、あらゆる面でアメリカに勝っているかのように自分で思っていました。しかし、実際にアメリカに来て、人と話をして、実際に自分で見て歩くと、自分の考えとは大きな隔たりがあることがわかります。

 このGSEで一番心に残っていることの一つとして、各企業、各会社のトップの方々と話をさせて項き、多岐にわたり話を聞き、社会勉強をできたことを挙げることができます。 特に、各企業のトツプの方々が我々のために、また時には私1人のために数時間をさいて項き、その会社のポリシーや政策を聞くことができ、また普通では見ることのできないような内側から会社、工場を見学できました。時にはシークレットに値するような資料まで見せていただきました。

 よく言われることですが、平均点としてアメリカと日本とを見くらべた時、今では、日本の方がすべてにおいてはるかにまさっているように思えます。確かにその通りなのですが、しかし、最高得点だけをとって考えてみた場合、事情は全く異なります。もし、すべての分野にオリンピックのようなものがあれば、上位を占めるのは、ほとんどが欧米の人々かもしれません。つまり一流と二流の差がはっきりと区別できる国だというのがアメリカに関する私の感想であり意見です。

 一般的にアメリカ人はどんなことに関しても細かいことにこだわらない人種のように思われがちですが、こだわりを持っている人のこだわり方がすばらしく、本当の一流のものを作る技術は、アメリカ人の方がまさっているのかもしれません。最近ではアメリカからは学ぶことは、もはやないなどという人がいますが、私の意見としては、そんなことはないと思えます。

 どんな事にも共通して言えることだと思うのですが、ある一つの事を始めて、ある程度まで自己の能力を伸ばすのは容易なことです。しかし、それ以上の能力を身につけようとする所にむずかしさがあり、物を極めるすぱらしさがあると思えます。そのすばらしさをアメリカの超一流の人々は持っているように思えます。

 日本人は、模倣の分野ではすぐれていますが、独創性の分野では欧米にかなり劣っているということは、皆が認めるところでしょう。それでは、なぜそういったことが起こるのでしょうか。日本人と、米国人の平均的性格の差でしょうか、それとも、考え方、生活習慣の差から生まれるものなのでしょうか。おそらくは、後者で、柔軟な物の考え方、また生活習慣の中から独創性や一級品が生まれるのだと思います。そういった意味を含めて、ホームステイにより、アメリカの生活習慣を知り、社会見学により、アメリカ人の物の考え方を知ることは、大変有意義なことだと思えました。

 5週間のホームステイをとおしての、アメリカの家庭、生活習慣に対する感想ですが、どうしても感じざるをえないのが、アメリカ人は自分の時間というもの、家族との時間を多く持っていることです。そして、自分の時間に対してでも、仕事に対してでも同じことが言えると思うのですが、自己の目的意識をはっきつと持っています。(反対に、自分の時間を多く持っているため、考えて行動している人とそうでない人の差が大きく、おちこぼれている人が多いのも事実で、社会的問題でもあります。)それゆえに、会社で成り行きで今の仕事をしているという人は少ないようです。今の仕事が気に入らない、また今よりサラリーのいい仕事がほかにあれば、ためらいなくそちらの仕事にうつります。その点で日本人のように会社に対する忠誠心のようなものはなく、良く言えば意志が強いのですが、悪く言えば我が強いともとれるようです。

 その我の強さのためもあると思いますがアメリカでは、離婚卒が大変高く、その率は、50%とも60%とも言われいています。(私がお世話になったのは6家庭で、そのうち3つの家庭で離婚の経験者がおられました。おそらくこういった生活環境のなかで自分を表現する力、主張するカがそなわってくるのだと思えました。

 いろいろな企業訪問を通じての感想ですが、病院、学校、City Hall(日本での市庁、県庁)、警察などでは、システム化、内容の進歩という面で日本の方がかなり遅れをとっているようです。学校での教育システムを例に挙げると理解しやすいと思いますが、暗記を中心とする日本の教育システムに対し、考える力、実践力を養うことを目的とした教育システムが確立されています。

 小学校の教育の中にコンピューターの授業があり、幼少の頃の方が物を吸収する力が強いという理由で小学校の初期より、外国語の勉強をしています。(フランス語とスペイン語が主のようでした。)良い物、考え方をどんどんとり入れる柔軟な考え方は我々日本人も学ばなければならないと思います。また卒業後、自分の勉強したいことを勉強できるコミュニティ・カレツジというものがあり、社会に出た後も実践応用力を中心としたプログラムを、大変安い授業料で受講できるのも大きな魅カです。

 これらの良いと思われるアメリカの側面として、自分の目的ややりたいことを見い出せず落ちこぼれていく人が多いのも事実で、仕事につけない人、ホームレスは大きな社会問題です。そして、社会間題と言えば必ず出るのが人種偏見で、アメリカの社会の底辺をささえているのは、黒人です。どこの会社に言っても、レストランであれ、工業であれ、一番肉体的にきつい、きたない仕事を強いられているのは黒人系の人々です。たいていの黒人の人々は、良い仕事につけず、社会的問題ではありますが、そのために日本のような人不足の間題は存在しません。人種偏見と並び、麻薬の問題は深刻で、幼稚園ですら、麻薬に対する教育が行われているのを見て大変驚かされたのを覚えています。

 職業研究の中にVocational Dayというものがあり、その地域で最もポピュラーなレストランを中心に見学させて頂きました。またそこの責任者クラスの人々と話をさせて項き、いつも感じたことがありました。成功しているレストラン、カフェテリアの責任者は、それぞれが仕事に対する強い信念を持って仕事に取り組んでいます。サービスとは、どういうものなのか、良い料理を作るにはどうすればいいのか、そしてその信念を、自分の部下にもきっちりと浸透させています。そして、そこでもう一つ忘れてはいけないのは、その信念に基づく徹底した合理性の追求です。そこからどんどんと新しい物が生み出されたような気がします。これより先、自分の仕事をすすめる上で大変参考になりました。

 異文化を学ぶことは、それがいいものであれ悪いものであれ、ある時は良き教師として、またある時は、反面教師として自分にいろいろなことを教えてくれます。そして異文化を学んで始めて自国の文化を理解できたような気がします。

 このロータリークラブのGSEでは、アメリカ自体の勉強は勿論ですが、それと共に異文化を学ぶ重要性を私に教えてくれたように思えました。

 最後になりましたが、このようなすばらしい機会を項き本当に有り難うございました。そして、来年度、ノースカロライナよりGSEのメンパーが来られる折り、なにかお手伝いさせて項けることがあれぱ、お申しつけ下さい。