古城が点在する北の国ノーザンブリアを訪ねて

播本裕典

大阪府審議室主査(大阪鶴見RC推薦)   

はじめに  
我々GSEチームが、訪問した国際ロータリー第1030地区は、英国の行政区画でいうイングランドの北東地域(North East Region)にほぼ符合します。(正確に言うと、ヨークシャー・ハンバー地域(Yorkshire and Hunber Region) のごく一部もその地区内に含みます。)  

英国の4つに分かれるイングランド、スコットランド、ウエールズ、北アイルランドの中のイングランドの最北部で、スコットランドに接し、北海に面 したノーザンブリア(Northumbria)と呼ばれる地域です。広さは、日本の静岡県ぐらい、人口は約250万人です。  

我々は、その地域の中をほぼ3日ごとに、お世話になるクラブからクラブへ移動しながら、数々の貴重な経験を重ねることができました。  

日程後半の9月24日から26日にかけては、北東地域を離れて、イングランド中部の保養地ハロゲイト(Harrogate) で開催された第1030地区の第69回年次大会にも参加させていただきました。大勢のロータリアンを前にした国際会議場の大舞台上でのプレゼンテーションは、自分にとっていい経験になりました。  

英国イングランド北東地域の印象  
自分自身にとって、英国はもとよりヨーロッパを訪ねることが初めてであり、実際に到着するまで、訪問先がどのようなところなのか、明確なイメージは持っていませんでした。ただ、英国は日本と同じ島国であり、人口もある程度あることから、日本と同様に結構混雑したところではないかとの思いがありました。  

しかし、当地に到着してみるとその印象はまったく誤っていたことを知りました。目の前には、どこまでも続くなだらかに起伏を描く丘陵地が、広がっていました。市街地は、その平原の中、そこかしこに寄り添って点在しているという状況です。日本のように限られた平野部に人口が密集し、人々がひしめき合っているというような様子とは、全然違うのです。  

この地域の中心都市であるニューカッスル(Newcastle-upon-Tyne) の中心部からでも車で10分も走ると、街並みは途切れ、牧草地や小麦畑が広がる風景が現れます。  

英国も日本と同じ、世界の中で数少ない、自動車が道路の左側を走行する国ですから、自分が英国ではく、日本の北海道の富良野や十勝を旅行しているような錯覚に陥ることもありました。  

日本ではほとんど目にするはできませんが、当地では、太陽が地平線に沈む美しい日没を何度も見ることができ、大阪という都市部に暮らし、そのような雄大な景色に憧れを抱いている自分としては、それだけで幸せな気持ちに浸ってしまいました。

英国イングランド北東地域の経済状況  
自分の専門分野である地方行財政に関するものも含めて、英国に関する書物を頑張って十数冊読んだ上で訪問地へ出発しました。専門分野の基礎知識に加えて、英国のマナーや社会慣習など基本的なことは理解した上で、もっと深くその先の事柄について学んだり、直接触れてみたいと思ったからです。  

英国全体についての経済情勢の概略についても、ほぼ把握しているつもりでいました。すなわち、保守党サッチャー政権下で行われた、ビッグバンなどの規制緩和や国鉄をはじめとする国有企業の民営化などの思い切った取り組みの成功によって、「英国病」とまで酷評されていた80年代までの経済的沈滞を脱出し、英国は、現在では着実な経済成長を遂げつつあるとの認識を持っていました。  

そのため、訪問先の各ロータリークラブの例会で行うプレゼンテーションで自分の担当である経済に関する部分において、「経済回復の兆しが見えない現在の我が国は、英国がこれまでに取り組んできた数々の取り組みに見習うところが多いはず」の旨、言及していました。  

確かに英国全体として捉えた場合には、それはそれで正しいのですが、訪問したイングランド北東地域は、経済的には必ずしも順調に行っているとは言いがたい側面 を持った地域でした。  

イングランド北東地域の経済・社会状況について説明しますと、当地域はイングランドの9つある地域の中で、一人あたりのGDP(国内総生産)額が、最も低く、イングランドの平均の80%強しかありません(96年度)。逆に失業率は8.6%で最も高く(98年度)、当該地域への企業の投資額も最下位 (94〜96年度間)、労働者の給与水準も最下位(97年度)という厳しい状況にあります。  

また、それらの事情を背景として、犯罪の発生率はイングランドの中で最高(95年度)という、社会的にも問題を抱えています。  

それらのことは、ホストあるいは、職業研修で対応いただいた行政担当者との会話の中でも、頻繁に出てくる話題でもありました。そういう意味で、我々は、英国全体の中でも、特徴ある地域を訪問してきたと言えると思います。それだけに、行政機関においても様々な取り組みを行っていますし、さらにロータリアンの方々も問題意識を持って、少しでも社会を良くするために奉仕活動等に積極的に取り組んでおられます。  

元来、イングランド北東地域は、良質の石炭を産する地域であり、以前には多くの炭坑がありました。我々が、最初にホームステイでお世話になったアシントン(Ashington) の町も元々は炭坑町です。英国のこの地域は、世界で最初に乗客を乗せた鉄道が開通 するなど、産業革命発祥の地であり、ニューカッスルなどの都市は、鉄鋼、造船業などの重工業で一時代大いに繁栄を誇るなど、この地域は、世界史上にその名を残しています。現在では、すべての炭坑は閉山となり、また、重厚長大の産業も衰退し、今、地域全体で産業の転換が積極的に進められています。外国企業誘致の展開などもその一つの表れです。  

この地域には、日系企業も多く、我々が、4番目にホームステイでお世話になったサンダーランド(Sunderland)には、日産の工場が、3番目と8番目のホームステイでお世話になったゲイツヘッド(Gateshead) には小松製作所の工場が立地しています。また、近くの町には富士通の工場もあるとのことでした。日系企業のほかにも、韓国やドイツなど外国企業も数多く進出しています。  

前述したとおり、この地域は、我々の地元大阪などと違って、広大な平原が広がっており、工場立地のための用地の確保などに困るようなことはありませんから、企業誘致を行う行政の立場からみれば、うらやましい限りだと思いました。滞在中、本当に数多くの大規模な工場団地を目にしましたが、にも係わらず、統計上、94年度から96年度におけるこの地域に対する投資額が、イングランドの各地域の中で最低というのは、随分意外な気がしました。  

また、日中、ニューカッスルやサンダーランドなどの繁華街を一人で歩いていても、治安が悪いなどという印象はまったくありませんが、ホームステイでお世話になったお宅にはすべてホームセキュリティー装置が備えつけられていますし、ホストは防犯のため、外出時も室内灯を点けたままにして出掛けます。また、自動車も盗難に遇わないように、ハンドルをロックする機具を備えていることが多く、そのようなことから考えると、確かに窃盗などの犯罪は多いのだろうと思いました。

英国の豊かさの実感
ちょうど、このレポートを書いている最中、98年度の日本の国内総生産(GDP、名目ベース)が初めて前年度比マイナスとなり、一人当たりのGDPも経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で前年度の4位 から7位に転落したとの報道がありました。
(日本の一人当たりのGDPの推移: 93・94年度->1位、 95・96年度->3位 、 97年度->4位と最近では確実に順位を下げています。)  
しかしながら、英国との比較においては、日本ははるかに上位に位置しています。英国の主な指標を日本と比べてみますと、人口が約5900万人(日本の46%)、面 積は約24万平方キロメートル(同65%)、国民一人あたりのGDPは、約2万0900ドル(同55%)となっています(97年度)。97年度において、日本の国民一人あたりのGDPは、英国の倍近くあります。しかしながら、実際に英国で、それも英国の中では決して経済的には進んだ地域とは言えないイングランド北東地域で目にする状況は、GDPの数値とは全く逆の印象でした。

●人口、面積、国民一人当たりの国内総生産(GDP)の英国と日本の比較

国名 年度 人口 面積 国民一人当たりのGDP
イギリス 97 約5900万人(46%) 約24万平方km 約2万0900ドル(55%)
日本 97 約1億2700万人 約38万平方km 約3万8200ドル

※( )内は、対日本比。 (出典:「現代用語の基礎知識」2000年版別冊付録「世界辞典」)    

高速道路網は、よく整備されていますし(料金はもちろん無料です)、街並みは、いたる所中世の面 影が残され、美しい花々に彩られています。また、道路上にゴミを目にすることもありません。さらに、市街地の中にも広大な公園が残されています。  

この地域の住宅は、一戸建て、二戸建てのほか、二階建ての住宅が長く横につながった「テラスハウス(terraced house)」などが一般的ですが、すべての住宅には前庭と裏庭があり、前庭には花々が植えられ、裏庭は芝生に覆われ、また、午後のお茶などをいただくテーブルと椅子が置かれています。大きなお宅になると、庭の中に家が建っているという風になります。自分もそこに住んでいるのですが、日本の都市部で多く見られるマンション(英国では「フラット(flat)」と呼ばれています。)などは、公営住宅の一部で採用されているのみで、この地域では一般 的ではありません。また、人気も非常に低いとのことです。

また、街中では、日本で見かけるよりもはるかに高い割合で、車椅子に乗って出かけている人を見かけました。公共施設はもちろん、道路の歩道などもバリアフリーがほぼ完璧に整備されていますので、車椅子の方も他人の力を借りなくても、自分一人でどこへでも不自由なく出かけられるようです。これは、成熟した社会においては、本来、当たり前であることかもしれませんが、日本ではまだまだ不十分な状況だと思います。日本では、整備済の歩道でも段差が残されていたり、片方に傾いていたり、また道路の途中で突然歩道がなくなっていたりと、結構いい加減なままになっているところも多いように思います。日本の鉄道の駅などは、以前の状況と比較しますと、随分整備が進められてきていますが、それでも、駅員さんなど他人の手を借りての移動の場面 もまだまだ見かけますし、このようなことが、車椅子の方の出かける意欲を削ぐことにつながっているのではないかと思います。バリアフリーの徹底などは、ぜひとも日本も見習って整備を進めていかなければならない点だと強く思いました。  

また、ニューカッスルやサンダーランドなどの中心部において、数多くの再開発事業が進められています。商業施設や住宅などが新たに建設されているのですが、市街地の広がりや周辺地域の人口規模からすると、大阪の状況よりも随分活発に事業が行われている印象を持ちました。  

既にできあがっている施設の中でも、ニューカッスルの中心部には「エルドン・スクエアー(Eldon Square)」というヨーロッパ全域の中でも有数の規模の商業集積施設があります。百貨店や商店街など、既存の商業施設を活用して建設されており、迷路のようなその規模に驚かされるとともに、古いものを安易に取り壊し、新しくて効率的な施設を整備しようとする日本人とは随分異なる発想に、根本的な文化の違いのようなものを感じました。

日本との比較
(考 察1) 
ホームステイ先のホストと話をしている中で、英国においても、日本と同じように学校でのいじめや不登校など教育の問題や、高齢化の進展に伴う福祉・医療の問題が社会の大きな課題になっていること、そして、これらに関する政府の予算が削減方向にあることなどが話題に上ることがありました。しかし、庄司さんや本多さんが職業研修でそれぞれ教育現場や福祉・医療現場で見てきた話を聞いてみると、英国は、それでも日本と比べると施設の整備状況や様々な制度の面 において高い水準にあるとの印象を持ちました。  

日本に帰って来てから、そのような印象は本当に正しいのかどうか少し調べてみました。まず、医療・福祉関係について、その総額を示している社会保障給付費について、英国と日本の状況を比較してみますと、国・地方を合わせた政府全体で、英国の場合は、対国民所得比27.2%の支出となっています。日本では、同17.2%です。それぞれの総人口に占める65歳以上の人口の比率は、英国が15.8%、日本が15.1%とほとんど変わりがありません。また、教育関係予算である文教関係費でも、国民所得に占める公財政支出の割合は、英国の場合は、7.2%であるのに対して、日本では5.7%となっています。  

一方で、社会資本整備関係予算を見てみますと、国内総生産(GDP)に対する公的固定資本形成(※1)は、英国では1.4%、日本では6.0%となっています。社会資本整備の必要性の前提となる社会資本整備の水準について、いくつかの指標で比較してみます。  

道路舗装率は、英国が100%、日本が74.8%、自動車1万台当たりの高速道路延長は、英国は1.38km/万台、日本が0.98km/万台、下水道処理人口普及率は、英国が86%、日本が64%、一人当たりの都市公園面 積は、ロンドンが25.3m2/人、東京23区が3.0m2/人、日本全体では7.50m2/人となっています。  

社会資本の整備状況では、日本は英国の水準には達していないようです。その分、公共事業を通 じて、道路建設、下水道整備など社会基盤の整備に多額の行政予算が投入されているという図式が見えてきます。そして、日本は社会資本整備にお金をつぎ込んでいる分、医療・福祉関係や教育関係に 廻されている予算の割合が、英国に比べて少ないということが言える思います。  

また、社会資本の整備を進める上で、日本は、英国に比べて幾つか不利な条件があるように思われます。それは国土の形状と地価、そして地震の有無です。英国は、国土の大部分をなだらかな平原に覆われていますから、道路の建設に際して、日本のように橋梁やトンネルを数多く建造する必要がありません。また、土地の値段も日本ほど高くありません。そして、地震がありませんから橋梁や建物を建てる際にも、日本のような地震対策も必要ありません。逆に言えば、日本の場合、英国と比べると投入している金額の割りには成果 が伴ってこないということになってしまうように思われます。  

※1「公的固定資本形成」  国、地方公共団体、公団、公社等、様々な公的主体による社会資本整備のための投資を「公共投資」といい、「公共投資」から用地費、補償費等を控除したものを「公的固定資本形成(IG)」といいます。  

●社会保障給付費の国民所得に対する比率の英国と日本の比較

国名 年度 国民所得に対する社会保障給付費の割合 内訳(医療) 同(年金) 同(その他)
イギリス 93 27.2% 7.3% 10.8% 9.1%
日本 93 17.2% 6.4% 8.9% 1.9%

(出典:「財政データブック」(平成11年度版(財)大蔵財務協会)  

●総人口に占める65歳以上の人口の比率の英国と日本の比較

国名 年度 総人口に占める65歳以上の人口の比率
イギリス 95 15.8%
日本 95 15.1%

「財政データブック」(平成11年度版(財)大蔵財務協会)  

●教育費の比率の英国と日本の比較

国名 年度 国民所得に占める公財政支出文教関係費の比率
イギリス 95 7.2%
日本 96 5.7%

(出典:「教育指標の国際比較」(平成10年度版、文部省)  

●公的固定資本形成の国内総生産(GDP)に対する比率の英国と日本の比較

国名 年度 GDPに対する公的固定資本形成の比率
イギリス 96 1.4%
日本 97 6.0%

出典:「財政データブック」(平成11年度版(財)大蔵財務協会)  

●社会資本整備の英国と日本の比較

1.道路舗装率

国名 年度 道路舗装率
イギリス 97 100%
日本 97 74.8%

2.自動車1万台当たりの高速道路延長

国名 年度 自動車1万台当たりの高速道路延長
イギリス 93 1.38km/万台
日本 97 0.98km/万台

3.下水道処理人口普及率

国名 年度 下水道処理人口普及率
イギリス 94 86%
日本 95 64%

日本の下水道処理人口普及率は、下水道のほか、合併処理浄化槽、集落排水施設等による処理を含む整備率。

4.一人当たりの都市公園面積

国名・都市名 年度 一人当たりの都市公園面積
ロンドン 1997 25.3平方メートル/人
東京23区 1997 3.0平方メートル/人
日本 1997 7.5平方メートル/人

(1から4までの出典:「財政データブック」(平成11年度版(財)大蔵財務協会)

(考 察2)
しかし、色々と調べていく中で、果して行政支出額の多寡だけで日本と英国との間の豊かさの比較について答えが出せるものなのかどうか疑問も湧いてきました。  

福祉、教育分野の施策や道路、公園の整備、あるいは警察による治安の維持など、何でも構わないのですが、自分達が受ける恩恵(受益)に対してどれだけの負担(税や利用料など)をしているのか、また国民の中の誰が中心になってそれを負担しているのか(所得の高い層にウエイトがかかっているのか、所得の低い層にも相応のウエイトがかかっているのかなど)によって、人々の満足度も変わってくるのではないか。  

さらに、我々が感じる豊かさには、物質的な豊かさだけではなく、人々の譲り合いの気持ちや助け合いの気持ちなど物的な統計上の数字としては現れてこない心の豊かさというものもあり、それらも重要な要素ではないだろうか。ある社会が豊かであるかどうかということは、最終的にはそこに暮らす人々の精神的な満足度に帰結するのだという気がしてきました。  

自分が英国の訪問先で感じた豊かさも、物質的なものだけではなく、自然や環境を大切にしたり、身体にハンディキャップのある人達の権利を正当に守るためにバリアフリーを完備したり、教育現場で英語ができないエスニック・マイノリティの子供たちに対応した授業を行ったりと、そこに暮らす人々が持っている精神的なところからくるものも大きかったように思います。  

今回の研修で、豊かさということについて、深く考えてみるいいきっかけをいただいたと思います。普段、とかく経済的、物質的な豊かさに目が行きがちですが、人に対する寛容さや思いやりといった心の豊かさ、温かさを一人一人が身につけていかなければならないように思います。

職業研修について
英国の地方自治
私の職業研修のテーマは、地方財政制度で、英国におけるその基本的な仕組みについては、日本にいる間に事前に書物等により把握することができました。英国で市役所等を訪問した際には、その知識を踏まえた上で、業務上の課題や現在の労働党政権の下での地方行政の方向性等についてお話を聞くことができ、そのことが自分にとって非常に有益でした。

英国の行政制度は、我が国と比べて中央集権が強く、地方自治体の所掌事務は、限定列挙方式で、厳格に定められています。自治体の予算規模も、我が国の同規模の団体と比較すると、1桁少ない程度の額しかありません。国及び地方自治体の歳出合計額に占める地方自治体の歳出額の割合を、日本と英国とを比較すると、日本では、ほぼ7割を占めておりますが、英国では3割弱しかありません。このことは、日本においては、福祉・教育・建設事業など行政施策のかなりの部分が地方自治体を通 じて行われているのに対して、英国では逆に地方自治体が行う事務は限定されているため、多くの行政施策が国の直接事務として行われていることを意味しています。

また、英国の地方自治体は、自主財源も乏しく、様々な事業を行うための財源の8割程度を国からの補助金に頼っています。日本の地方自治体においては、自治体の歳入総額に占める地方税の割合が平均すると30%台であることなどから、「3割自治」なる言葉もよく使われていますが、その考え方からすると英国は「2割自治」と言える状況かもしれません。

日本の地方自治体は、自らの自主的な政策判断により、安定した行財政運営を行えるよう、自主財源とりわけその中心となる税源を安定した形で国から地方へ移すよう、熱心に働きかけを行っています。そのことが、事務の移譲とともに日本で言うところの地方分権の大きな柱に位 置づけられています。  

しかし、英国ではそのような動きはまったく見られません。地方自治体としては、行う事務が決まっているため、事業を行うための財源が自らの税収であろうが、国から配分される補助金であろうが、あまり意味がないからなのでしょう。日本における地方分権推進についての動向やその必要性などを、訪問した英国の市役所の担当者に説明しても、なかなか理解してもらえませんでした。自治体の機能、役割についての根本的な視点や発想が異なっているのです。  

しかしながら、地方自治体としての自治意識は高く、町の歴史や地域性に誇りを持ち、街並みの保存や美化に力を入れているところが多く、その熱心さには驚かされました。

英国での訪問先
私が職業研修で訪問したのは、
ダラム県庁(Durham County Council) 、
イージントン市役所(Easington District Council)、
ミドルスバラ市役所(Middlesbrough Borough Council) 、
ハンブルトン市役所(Hambleton District Council)、
ダーウィンサイド市役所(Derwentside District Council)、
ダーウィンサイド工業開発公社(Derwentside Industrial Development Agency) 、
ゲイツヘッド市役所(Gateshead Metropolitan Borough Council)
の7カ所です。  

我々チームメンバーの職業は、全員異なることから、職業研修の日は、そのぞれ個別 の行動となりました。私の場合、ダーウィンサイド市役所、ダーウィンサイド工業開発公社を訪問した日は、併せて1日の行程でしたが、その他の官庁を訪問した際は、それぞれ丸1日時間をとっていただき、幾つかの部署に案内いただいて、話をお聞きするほか、車で外に出かけて、施設等を見学させていただきました。

興味深い場所も幾つか案内いただきました。その一つ一つを取り上げ、堀り下げて論述するだけで、それぞれ長大なレポートが書けるような内容ですが、ここでは簡単な紹介に止めさせていただきます。

イージントン市役所では、ピタリーニュータウン(Peterlee new town) とシーハム再開発地区(Seaham regeneration area)を案内いただきました。元々、「ニュータウン」という言葉は、英国が発祥の地です。日本にも、多摩ニュータウンや千里ニュータウン、泉北ニュータウンなど巨大なニュータウンが存在しますが、これは、英国のニュータウンが有する機能の内、住宅の部分だけを取り出して日本に輸入して建設されたものです。

英国のニュータウン建設は、単なる「住」の機能だけではなく、「職」や「自然」をも併せ持った総合的な事業です。広大な地域の中に、緑豊かな住宅地や工業団地が立地し、その横には、人々の憩いの場となる森が自然のまま残されています。

しかしながら、そのような高度な思想の下に建設された英国のニュータウンですが、現在、問題がないわけでもありません。訪れたピタリーニュータウンでも、付近の炭坑の閉鎖などのため、多くの人が無職の状態で生活保護を受けており、特にこのような人々が多く集まっている地区では、治安が悪かったり、青少年の非行が多かったりと社会的な問題を抱えており、その対応に腐心しているとのことでした。

シーハム再開発地区は、日本で今もてはやされているPFI(private finance initiative)の手法を用いて進められている大規模な工業団地です。PFIも英国が発祥の地であり、そういう意味で、イージントン市役所での見学では、日本が模倣している手法のオリジナルを見せてもらい、大いに勉強になった反面 、我が国のオリジナリティのなさ(その分、アレンジがうまいと言えるのかもしれませんが)を思い知らされた感がして、複雑な思いがしました。

また、これらピタリーニュータウンの開発・管理やシーハム地区の再開発事業が国(Central Government)や県(County Council) ではなく、市役所(District Council)が主体となって進められていることに驚かされました。我が国では、このような大規模な事業が人口10万人程度の市役所がコーディネーター役になって進めらるなどといったことは、およそ考えられないことです。前述したように、一般 的には、英国は中央集権が強い国ですから、英国の地方自治体が担当している事務は限定されています。しかしながら、それだけに地方自治体が担当している分野については、まさにプロとして事業に当たっているとの印象を持ちました。

逆に、日本の地方自治体は、住民の生活に関するほとんどの事務に関わっている「何でも屋さん」ではあるけれども、ある特定の分野に限定して考えれば、高度な専門知識を有している人材は、地方自治体には育っていないのではないかとの思いを持ちました。

英国の人事制度
しかし、実は、日本と英国との地方自治体の人材面におけるこのような状況の違いには、それなりの背景があります。それは、雇用慣行の違いです。

日本の社会では、今、変わりつつありますが、これまで終身雇用というシステムが広く機能していました。自分自身を例にとりましても、15年前に大阪府庁に行政職の職員として入庁し、2年から3年ごとに部門を移り変わりながら、ジェネラルな行政マンとして現在に至っていますが、英国では、このような昇進形態はあり得ません。民間企業はもちろんのこと、官庁においても、ポストごとに人材の募集が行われており、雇用の流動性は非常に高いものがあります。もし、ある人が昇進を望むならば、自分が身につけている専門性を武器に、その知識や能力を活かせ、かつ現在就いているポストよりも高いポストの空き募集に応募し、転職するということになります。私に応接してくれた県庁・市役所の担当者のほとんどが幾つもの市役所や県庁などを移りながら、現在の地位 にあるとのことでした。

そういう点から言えば、規模の小さな市役所でも、給与等の面で好条件を提示すれば、ある特定分野で専門性に長けた優秀な人材を確保することは可能となります。この辺りの事情は、わが国とはまったく状況を異にしています。日本の地方分権を考える上で、示唆に富むところがあると思います。また、この雇用システムは、官公庁における職員の仕事への動機づけ等、人事管理の面 においても、大いに参考になるところがあるように思います。

ここまで、随分の英国の地方自治体を褒めるようなことを書いてきましたが、あまり知られていないことで、日本の方が優れてていると思われる点についても、少し触れておきたいと思います。それは、公務員の人数の問題です。

人口千人当たりの公務員の人数は、わが国は国と地方自治体を併せて37人。防衛関係の職員を含めても39人です。英国は、それぞれ78人、84人と倍以上の人数になります。(ヨーロッパの主要国も、ほぼ英国と同様の状況にあります。)官庁同士の比較においては、日本はヨーロッパ主要国に比べて組織の効率化が進んでいると言えると思います。

●人口千人当たりの公務員数の英国と日本の比較

国名 年度 人口千人当たりの公務員数
イギリス 95 78人(84人)
日本 95 37人(39人)

※公務員とは、国家公務員、地方公務員、政府企業職員の合計。また、日本の場合は、特殊法人職員も含む。
(出典:「財政データブック」(平成11年度版 (財)大蔵財務協会)

最近の動向
英国は、古い建物を大切にしたり、貴重な自然や遺跡を後世に守り伝えていこうとするナショナル・トラストなどが盛んで、日本と違って、必ずしも新しいものを好まないような気質があるように思います。しかしながら、行政施策については、現行の方式を取り止めて、新しい取り組みを進めることに大胆というか、躊躇しないところがあるように思います。悪く言えば、ころころとやり方が替わると言えるかもしれません。

現在のブレア労働党政権下では、今、その前の保守党政権下で強力に押し進められた中央集権化とはまったく逆の地方分権化が進められています。日本でも広く知られている、スコットランドやウエールズの議会の設置などはその顕著な事例です。

イングランドでも、サッチャー保守党政権下で解体された大ロンドン市の復活が進められているほか、イングランド全土を9つの地域(Region)に区分けし、ロンドンで行っていた国の事務の一部をこれらの地域で行うよう、分権化が既に図られています。

また、そのような枠組みの変革だけではなく、ブレア政権はそれぞれの地方自治体に対して、現在、新たな行政改革を求めています。それは、「Best Valueを心掛けよ」という言葉に集約されています。

「Best Value」という言葉は、職業研修で訪問したすべての自治体で耳にしました。これは、行政職員に対して意識改革を求めているものであり、その内容は、住民のニーズに応える行政を行うというレベルに止まるのではなく、さらに、
・意識的な改善(improve continuously)
・効率性(cost effective)
・住民とのパートナーシップの構築(developed in partnership with local people and users)
・熟達した職員による提供(delivered by staff who are well trained and committed )
などを求めているものです。

少し漠然としているような気もしますが、サッチャー保守党政権下で補助金の締めつけなどにより、地方自治体の行政改革を強力に進めた力づくの手法と比較すると、地方自治体職員に対して自主的な向上を求めていこうとするブレア労働党政権の進め方は、興味深いものがあると思います。

英国は、保守党、労働党という二大政党の間で政権が交代する政治形態があるため、政権交代時に政策の方向が大きく変わることは当然なのですが、日本ではこれまで、国政レベルでは、政権政党が替わっても行政施策に大きな変化が生じた経験がないので、英国の地方行政の方向転換がことさらドラスティックに映るのかもしれません。いずれにせよ、地方分権、地方分権とメディア等で言葉が踊り、また、法制面 においても今年度地方分権推進関連法案が制定されたりしているものの、自律的な地方自治行財政運営の確立といった意味においては、遅々として進展が見られないわが国の硬直した状況と比較して、英国の取り組みの大胆さには目を見張るものがあります。ブレア政権の取り組みにより、地方行政分野でどのような成果 が現れるのか、今後とも注目していきたいと思います。

ホストファミリー及びお世話になったクラブについて
前述したように、我々は、それぞれ3日ないし4日ごとに移動をし、お世話いただくクラブを移っていきました。結果 、我々はそれぞれ8軒のお宅にホームステイさせていただくことになりました。

自分がお世話になった8軒のお宅についても、当たり前のことですが、それぞれのお宅ごとに個性があり、違いがあります。しかし、いずれのお宅でも温かく接していただいたという点では共通 しています。本当に感謝しています。

それぞれのクラブで私がお世話になったホストのお名前は、チーム全体の巻末に掲げさせていただいています。

8軒のホストの中で、ラビのお宅だけは、16歳を筆頭に可愛い3人のお嬢さんがいました。それ以外のお宅はすべて、息子さんや娘さんが既に成人し、家を出ていて、ご夫婦だけで住まわれているご家庭でした。日本からのお土産に折り紙や剣玉 を幾つか持参し、また日本にいる間から随分その練習をしていったのですが、一緒にできると思っていた小さな子供たちがほとんどいなくて、実践する場がなくてちょっと残念でした。剣玉 については、佐久間君がフェアウエルパーティ(送別会)で宴会芸の一つとして使ってくれ、また、お別 れに会いに来てくれたホスト達も試しに自分でやってみて楽しんでくれたので、良かったかなと思っています。(剣玉 も喜んでいることでしょう。)

英国と言えば犬が家族の一員として大切にされていることで有名ですが、実際、それはその通 りでした。お世話になったほとんどのお宅で犬を飼っていて、また、話に聞いているように非常によく躾けられていて本当に感心しました。親しくなった(?)中で、特に2頭の犬が印象に残っているので紹介させていただきます。

ポリー(Polly) は、サンダーランドでお世話になったアーニィとアンのお宅のお嬢さんです。あるとき、家の近くのポストまで、私がハガキを出しに行くときに、アーニィが私になついているからと、ポリーを一緒に連れて行かせてくれたのですが、家から30mほど離れたところまで来ると、ポリーはその場に座り込んで、それ以上は一歩も動かなくなってしまいました。仕方なく、また家まで戻ったのですが、家に帰るとポリーは、まるで私は誘拐されかかったのよと言わんばかりに、アーニィとアンに訴えている姿がありました。

また、ゾグ(Zog) は、ストックスリーでお世話になったケンとウエンディのお宅の坊やです。生後9ヵ月ですが、体は既に立派な大人です。大きくて真っ黒なきれいな犬です。彼は、いつでも遊んで欲しくてたまりません。私とも遊んで欲しくて、飛び掛かって噛みつきにきます。彼の意識は小犬のままですから、単にじゃれているつもりなのですが、飛びかかられた方はたまったものではありません。痛いし、服が涎だらけにされてしまいます。ケンとウエンディは、毎日、格闘しながらゾグの躾けに当たっています。  

犬ではありませんが、アニック(Alnwick) のイアンのお宅では、庭の池に鯉を飼っていて、意外だったのでびっくりしました。イアンの話では、最近英国でも鯉を飼うのが流行っているとのことです。

ホスト役を買って出ていただいたクラブでは、それぞれお世話になった3日ないし4日の期間、本当にクラブをあげてお世話いただきました。また、それ以外のクラブでもベウィック・オン・ツウィードクラブ(Rotary Club of Berwick on Tweed) やゲイツヘッド・イーストクラブ(Rotary Club of Gateshead East) 、バーナードキャッスルクラブ(Rotary Club of Barnard Castle) など1日単位 でお世話いただいたクラブもありました。

それぞれのクラブで、カジュアルなホームパーティを開いていただいたり、クレイ射撃(Clay Shooting) を体験させていただいたり、また、グラスボーリング(Grass bowling) という、それまでその存在すら知らなかった英国ならではのゲームを一緒にさせていただいたりと、英国文化・生活習慣に触れる数々の機会を設けていただきました。 お宅に泊めていただいたホストはもちろんですが、それ以外の多くのロータリアンの方々の奉仕の精神に根ざした温かな心配り、惜しみない労力の提供があってはじめて、これらの経験を重ねることができたことは言うまでもありません。

また、ジョン・ビラニー(John Billany)ガバナーには、何度も我々のプレゼンテーション発表の場に立ち合っていただきました。飾らない、親しみやすい人柄と、多忙な日程の合間を縫って我々に会いに来てくださる誠実な対応には、感激するとともに、敬服の念すら抱きました。ガバナーをはじめ、お世話になった第1030地区のロータリアンの皆様に、改めて心から感謝申し上げたいと思います。

思うことあれこれ
語学力について 
今、自分の語学力について、大いに反省しています。反省しているだけでは仕方がないので、とりあえず、5月に来阪する第1030地区GSEメンバーとの再会に向け、その向上に努めています。

GSEの派遣に当たって、メンバーにどの程度の語学力を求めるかについては、色々意見の分かれるところだと思います。あまり高い水準を求めると、人選に困る旨のお話をお聞きしたこともあります。また、受入れ側が想定しているレベルも考慮しなければならないでしょう。ただ、自分自身の今回の経験から言えば、やはりある程度の語学力は必要ではないかと思います。

第1030地区の職業研修では、メンバーそれぞれの専門分野に合わせて、すべて個別 の日程を組んでいただきました。私の場合を例に上げますと、朝、ホストに市役所まで連れていっていただき、夕方、また迎えに来ていただく。その間は、その地区のロータリークラブが事前に調整してくださった市役所内の部署でお話を聞き、議論をさせていただくといった具合です。6回の職業研修のうち、2回だけはロータリアンの方が随行してくださいました。また、地元クラブの例会でのプレゼンテーションの後、その内容について、質問をいただくこともありました。ロータリアンの方が気を遣って、質問しなければ失礼になるのではないかと思って、質問いただいていたような気もしますが、大勢の前でもあり、質問される方は、ドキドキしました。いずれにしても、そのような状況では、日常会話に毛が生えた程度の語学力では、正直言って少しつらい部分があります。専門用語の幅広いインプットとともに、もう少し上の語学力が必要であると思いました。

今回のGSEメンバーの中で、自分の語学力が一番下だったのですが、そのことは、ある部分では非常に気が楽なところもありました。ある場面 で、自分が聞き取れているということは、当然、他のメンバーは全員聞き取れていることが判るわけですから。

第1030地区GSEメンバーと我々メンバーとの再会の時には、英国においてそうであったようにナチュラルスピードに近い速さのでの会話になると思いますので、今から精々頑張ってみんなについていけるように努力したいと思います。

ブリティッシュ・イングリッシュについて
あと、英語に関して言えば、英国に行って改めて、我々が普段、日本で触れている英語がアメリカン・イングリッシュであることを思い知らされました。表記の違いも枚挙に暇がないのですが、やはり発音が随分違うと感じました。もちろん、日本語が地域によって大きく異なるのと同じように、英国における英語も、少し地域を移動するだけで変化します。第1030地区内を移動しているだけでも、発音や言葉遣いの違いが如実に聞き分けられるは、面 白いと思いました。

とても初歩的なレベルで恐縮ですが、トマトがトゥメイトウではなく、日本語の発音のようにトマトと、あるいはビタミンがヴァイタミンではなく、やはりヴィタミンと発音されているので、そうかこれらの言葉は、アメリカからではなく英国から来ていたのかと(事実かどうかは知りません。)、さらに英国に親近感を覚えるようになりました。

自分の見識について
英国のロータリアンの方々やチームの中村団長と話をしていて、つくづく、自分の知識の狭さ、見識のなさを痛感しました。もっとも、中村団長の博学さについては、団長と親交のある方々は、良くご存じのことだと思います。

クラブの例会などで色々な分野のロータリアンとお話をして、自分の知識が偏っていること、また、現在、海外で起っている事件、事象についての自分自身の定見がないことを何度も感じさせられました。(起こっている事件の内容自体、その背景まで含めた知識を持ち合わせていないことが多いので、自分自身の見解など、あろうはずもないのです。)

また、自身の世界史の知識(もちろん、英国で問われるのは、まず英国史に関する知識ですが)の薄っぺらさには、我ながら呆れるほどでした。一般 教養の一つとして、改めて勉強し直そうと決意をしました。いずれにしても、日々の積み重ねによって、知識は身についていくものでしょうから、以前にも増して、新聞、書籍等に目を通 す時間を増やすように心がけています。

ちなみに、英国では、日本の歴史について学ぶことは、一般的にはほとんどないとのことでした。喜んでいいことなのかどうなのかわかりませんが、あるホストが、「貴方たちは、日本語に加えて英語もできるし、英国の歴史も知っている。私達は怠け者で、外国へ行っても相手が英語を話してくれるので、外国語も身につかないし、日本の歴史なんて全然知らないのよ。」と言っていたことが印象に残っています。

職場の情報化
大阪府に勤める職員として英国の官庁を訪問しての感想ですが、英国の県庁や市役所における職員一人当たりの面 積は、日本のそれと比べて格段に広いです(2〜3倍といったところ。)。机も広くて、全体として随分ゆったりとしています。また、既に職員一人一人にパソコンが配置され、情報化も進んでいます。

大阪府は、全国の都道府県の中でも最も情報化が遅れている県庁の一つで、現在のパソコンの配備状況は、職員5〜6人に1台といったものです。そのような大阪府庁の現状を伝えると、一様に信じられないという顔をされました。「富士通 」や「NEC」、「日立」など、日本のコンピュータ関連企業の名前は、英国でも広く知られていますから、その国の官庁が自分達の職場よりも情報化が遅れているという事態は理解できないと言われました。

地震のない国
地震の無い国の建造物はこんなにも違うものかと思い知らされました。英国の道路橋梁のピアなどは、日本のそれと比べると、大げさに言えば鉛筆のように見えます。また、私の3番目のホストで実業家のラビが、自身がオーナーとして建設中のホテルの工事現場を見せてくれたのですが、鉄筋も何もない単に積み上げただけのブロックを柱や壁にして、その上に鉄板を渡して床にした簡単な構造で数階建ての建物が建設されていました。日本で見慣れたマンション等の工事風景と比較すると考えられないくらい簡易な造り方で、びっくりしました。

おいしい食事
英国の料理について、英国の外では、あまり評判は良くないようです。出発前、職場で英国に行ったことがある同僚達に聞いても、ほとんどの返事は、あまりおいしくないというものでした。ただ一人だけ、英国でホームステイしていた経験のある同僚は、ホームステイ先のおばさんの料理は、いつもとてもおいしかったと言っていました。

今から振り返ると、そこに鍵が隠されているようにも思います。書物に書かれていたり、日本人の旅行者が主に食事しているのは、ロンドンのレストランなどであり、英国の本来の家庭料理や地方のパブで出される料理などとは少し違っているのかもしれません。

自分が1月余り滞在してきての英国料理についての感想は、「おいしかった」ということです。確かに英国の食材は豊富ではないように思います。それは、英国の国土が北に位 置し、自国内で取れる野菜などの作物が限られていることとも大いに関係があるのだと思います。しかし、いただいた食事はおいしいものばかりでした。 朝食には、シリアルやパンをいただきました。日本では売られていないたくさんの種類のシリアルにびっくりしました。昼食は、出かけた先でいただくことが多かったのですが、ロータリークラブの昼の例会に出席している場合には、夕刻の例会と同様、パブや小さなホテルのレストランでビール、前菜、メイン料理、そして最後にコーヒーとデザートをいただくことが多かったです。 メイン料理は、ローストビーフや肉をパイで包んだ肉料理のほか、鮭や鱈の魚料理が中心です。

ホスト宅でいただく夕食は、料理を得意にされているホスト(奥さん)が多く、また、ゆったりとした雰囲気でいただくこともあり、特においしくいただかせていただきました。英国では、じゃがいもが日本の米のような主食と言えるのではないかと思います。昼食や夕食には、焼いたり、茹でたり、揚げたり、コロッケになったりと様々に形を変えて、いつもメイン料理の横に顔を出します。また、たくさんの種類の英国のビールは本当においしかったです。英国南部では、冷えていないビールが出されると聞いていたのですが、訪問先の地域では、いつも冷えたおいしいビールが出てきました。

あと、英国は紅茶の国と聞いていたのですが、最近では、コーヒーを飲む人がドンドン増えているとのことでした。実際、ロータリークラブの例会でも、紅茶よりもコーヒーの方が先に給仕されることもあって、ほとんどの人が、紅茶ではなくてコーヒーを飲んでいて、随分日本でのイメージと違うなあと意外に思いました。

グラスボーリングについて
ゲイツヘッド・イーストクラブのお世話で、グラスボーリングというゲームを一緒にさせていただく機会がありました。連れていっていただいたところは、会員制の施設のように見えましたので、特別 にご配慮いただいたのだと思います。

このゲームは、分かりやすく例えると、ゴルフ場のグリーンの上で行うカーリングのようなスポーツです。30〜40m四方の四角い広さのスペースが、ゴルフ場のグリーンのように美しく整備された芝生で覆われていて、その上に一か所、目標ポイントを置きます。そして、目標から離れた地点から敵、味方、チームで交替にボールを転がして、最終的にどちらが目標に近い位 置にボールを残すことができたかでポイントを競うものです。

転がすボールが、まん丸な球ではなく、楕円形の形をしているところがミソです。ボールは、真っ直ぐには転がってくれません。  英国内では、全国大会が開催されるなど、そこそこポピュラーなスポーツのようです。我々初心者も、それなりに楽しいひとときを過ごさせていただきました。お世話になった皆様、ありがとうございました。

ダラム大聖堂(Durham Cathedral)の夜景
滞在期間中、たくさんの美しい風景に出会いました。各地に点在する古城や町ごと観光地になっているエジンバラやヨークの街並みの美しさには、圧倒されるほどでした。また、自然のままの砂浜が続く北海の海岸線や美しいピンク色のヒースの花が咲き乱れるムーアが広がる風景は、いかにも英国らしい印象的なものでした。

それらの中で、特に、ダラムの街の中を流れるウエアー川(River Wear)に浮かべた船の上から見たダラム大聖堂のライトアップされた夜景は、鳴り響いていた鐘の音とともに心に焼きつき、忘れがたいものとなっています。川面 を渡る夜風が凍えるほど寒かったことが、大聖堂の美しさを一層、引き立たせてくれていたようにも思います。

真夏に着た冬服
第2660地区で用意いただいた我々GSEチームの制服は、英国の気候に合わせて冬服でつくっていただきました。グレンチェックのズボン(女性はスカート)に、紺のダブルのスーツ、そしてえんじとグレーの抑えた色調の縞のネクタイと、それはピシッと決まったものでした。そして、英国の9月から10月上旬の気候は、想像以上に寒いものでしたので、冬服は非常にありがたいものとなりました。

第1030地区に着いた9月上旬は、平年よりずいぶん暑い日が続いて、日中の最高気温が20度を少し超えるぐらいの気候でした。現地の人達は、毎日、「暑い」「暑い」と口癖のように言っていました。しかし、10月上旬になると随分冷え込んで来ました。第1030地区の北東地域よりも2〜3度気温が高いロンドンでも、日程の最後の辺りでは、日中の最高気温が12、3度、朝晩は、零度そこそこの温度しかありませんでした。冬服の制服の上にコートを着ていてちょうどいいくらいの服装となりました。

そんな気候のロンドンから、10月上旬だというのに、まだ、30度を超える暑さの大阪へ帰ってきたときには、あまりの暑さに目眩がしてしまいました。20度を超えたぐらいで暑がり、10度そこそこの気温でも、平気で半袖で街中を歩いている北東地域の人々が、我々と一緒に大阪に来ていたならば、本当に暑さでぶっ倒れるに違いないと思いました。

目眩がするほどの暑さと言えば、8月の中旬にメンバー全員で制服を着て名刺用の写 真撮影を行った時の暑さも忘れらません。みんなで経験した、汗だくだくの苦行(?)も、今では懐かしい思い出の一つになっています。

カナダ第7080地区派遣GSEチームメンバーへの感謝
我々のチームは、メンバーの決定から派遣まで、2ケ月余りの期間しかなく、色々な面 で加藤団長をはじめとするカナダ派遣GSEチームのメンバーに助けていただきました。実際にGSEのメンバーとして派遣された体験からくる的確な助言や惜しみのない様々な資料の提供などがなければ、限られた時間の中で、我々のチームが手際よく準備を進めることはできなかったと思います。

特に、プレゼンテーションについては、我々は、出発2ヵ月前の時点で、どのようなことをしなければならないのかさっぱり認識できていない状況にあった訳ですから、カナダ派遣チームの叱咤激励がなければ、とても間に合わせることなど、覚束なかったに違いありません。まるで自分達のことのように、心配し、協力の手を差し伸べてくれたカナダ派遣チームに、改めてお礼を申し上げたい思います。また、お土産や語学研修など、細かなことまでご配慮いただいた、松岡委員長をはじめGSE委員会の委員の皆様や関係者の皆様にも併せて、お礼申し上げます。

最後に
今回、GSEに参加させていただいて、英国の地方行財政について多くを学び、新たな知識を得ることができました。また、ロータリアンの家庭にホームステイさせていただき、英国の社会や生活の一端に触れ、あるいは、様々なテーマについて意見を交わし、また、気持を通 じ合う機会を持つことができたことは、専門知識の修得以上に自分にとってかけがえのない貴重な財産になったと思います。

そして、英国への出発までの準備期間も含めて、学ばせていただいたことがたくさんありました。ロータリアンの方々やチームメンバーと接する中で、新たな発見をしたり、見識を拡げたり、人の痛みを感じることがあったりと、そういった広い意味で、今回GSEに参加させていただたことは、自分にとって重要な転機になるのではないかと思っています。

今、報告書をまとめながら、英国での楽しかった日々を追体験するとともに、GSEを通 じて、日本国内そして英国において培うことができた新たな人との交流の和を今後とも大切にしていこう、そして、色々な面 で視野を拡げていただいたり、考えるきっかけをいただいたことに、きちんと取り組んで行こうと考えています。

お世話になった皆様、本当にありがとうございました。