"Be a Friend"を実感。生活弱者に配慮した施設運営

山田 有希生

(京阪電気鉄道(株)人事部社員、大阪鶴見RC推薦)

 GSEプログラムに推薦していただきました 大阪鶴見ロータリークラブをはじめ、出発までお世話をしていただいたGSE委員会の方々、私たちのために素晴らしい研修を提供していただいたスウェーデン2400地区の皆様、それに5週間共に過ごさせていただいたGSE日本チームのメンバ ーに心から感謝を申し上げます。

ホストファミリーと

 私がお世話になったホストファミリーの職業は様々で、どの家庭においても夫婦とも職に就いていました。私は、ホストファミリーに浮世絵柄のコースター (茶托)を、子供には浮世絵柄の和紙でできた財布をお土産に持参し、交流の第一歩としました。ホストファミリーには私の家族、私が勤務する「京阪電車」、阪神大震災などについて写真などを用いて紹介しました。また京阪グループの概要を紹介する ビデオを使いながら、大阪の交通事情、住宅事情及び商業施設などについて話しました。

 ホストファミリーは、朝の通勤ラッシュや高層ビ ルの風景に大変驚かれたようです。なにしろ、訪問地域は大阪に比べると人口が少ない町だったからです。また、不動産、デパート、ホテルといったよう に多角経営を行っている「日本の私鉄」に関心を寄せられました。とくに、本来は大阪湾内を運航する 観光船「サンタマリア」が、阪神大震災後、鉄道不通区間で代替交通の役割を果たしたことに興味を示 されました。

 そのほか、私は人事・労務部門に所属しているこ ともあり、日本の労働時間、休暇、賃金、物価等の話をする機会が多かったわけですが、日本の長時間労働、通勤時間、円高を背景にした名目賃金の高さに驚かれました。

 趣味の話題ではテニスやサッカーなどスポーツの 話で盛り上がり、ホストとゴルフの打ち放しやテニスを楽しむことも何度かありました。

ロータリー・クラブの例会で

 昼食時又は夕食時に参加したロータリークラブ の例会では、私たちのプレゼンテーションとしてスライドを用いて日本や大阪を紹介(大阪城、高層ビルなど都市の景色、天皇制、能、歌舞伎、交通事情、日本食、阪神大震災など)しました。とくに被災地のスライドに興味を示されたようで、JR六甲道駅の復旧(4月1日復旧)までの新聞切り抜きから作成したスライドや仮設住宅のスライドを熱心に見つめられていました。そのほか、「鶴」や「かぶと」の折紙やジャンケンを教えてあげたり、日本の唱歌(「花」、「おぼろ月夜」、「鯉のぼり」など)を歌ったこともありました。

職業研修

 研修の目玉の一つに職業研修があり、鉄道会社に勤務している私はハルムストート(Halmstad)で鉄道やバスを見学する機会をえました。

(1)鉄道

 スウェーデンには、SJ(スウェーデン国鉄)とローカル線(自治体が経営)があります。おもしろいことに、1988年にSJの「技術部門」が運輸部門から独立して別会社(BANVERKET)を組織していました。すなわち、列車を営業して運賃収入を得る部門と、新線建設や電車線、線路の補修等を行い、収入を生まない部門が別会社になっているのです。

 訪問したHalmstadの駅は男3人、女 5.5人(フルタイム換算。駅にもパートタイム労働者がいる)の配置で、女性が乗車券発売業務を担当していました。  駅舎の入口は寒い国らしく二重扉になっており、駅舎内に設置されているコインロッカーは、奥行きが広く大きめなので、とても便利です。       

 乗車券売場では、島国日本では考えられませんが スウェーデン国内だけでなくヨーロッパ各地への乗車券を買えます。また、乗車券はクレジットカードで買うこともできます。駅全体としては、銀行窓口か旅行会社の営業所のような印象を受けました。

 研修を終えストックホルムに滞在中、地下鉄を見る機会がありました。大阪に比べ人口が少ないこともありますが、7両連結の列車をワンマンで運転し、運転士が運転、扉の開閉、案内放送のすべてを担当していたのには驚きました。扉の開閉時に乗客を挟まないよう監視するためのカメラがホームに備えつけられているとはいえ、大阪では考えられない光景でした。そして、数多くの女性が地下鉄運転士として仕事をこなしていました。また、治安がよいせいか女性が深夜の駅改札業務についているのにも驚きました。

 ストックホルムの地下鉄駅施設は写真のように 壁面がとても美しいデザインになっていました。

  鉄道の技術会社であるBANVERKET では、新線建設の現場を見学しました。線路敷は貨車の重量に耐えうるよう、頑丈でバラス(砕石)も大きめでした。また線路は広大な土地を生かしてまっすぐ敷設されていました。

(2)バス

 SWEBUS(SJの子会社)というバス会社を訪問することができました。ここでも多くの女性ドライバーに会えました。

 バスの特徴は床が低く(低フラットバス)、ステップがないことで、そのうえ停留所では床が空気圧で上下するのには大変驚きました。また、バスからスロープが伸び、バスの停留所との段差を解消するタイプのバスも見かけました。これらは、高齢者や障害者がバスに乗りやすくさせるもので、低フラットバスのコストは、普通のバスの2倍( 170万SK=約 2,000万円)かかるそうです。現在のところ、 訪問したHalmstadエリアは約半数がこの低フラットのバスですが、将来的には全てこのタイプに切り替わる予定です。

 最近日本では、関東の京王帝都や大阪市交通局が 車椅子を利用する乗客向けに、低フラットバスやリフトバスを導入していますが、全路線バスの本数に対する割合が低いため、障害者にとって必ずしも便利というわけではないのが現状です。

(3)トランスポート・サービス

 行政が重度障害者のために行っているトランスポ ート・サービス(輸送サービス)は、24時間体制で、利用者(登録された者に限る。本人負担はバス料 金並)が事務局に電話連絡することにより、送迎車が自宅まで迎えにきてくれ、目的地まで運んでくれます。送迎車は後部にリフトを備え、ドライバーが車椅子を車内に搬入します。また、車内の椅子は全て取り外し可能です。

障害者施設、老人ホーム見学

 私はこれまで日本でも障害者施設や老人ホームを見学したことがありませんでした。その私が見たスウェーデンの施設の印象は、「生活弱者は生きてさえいればそれでよいというのではなく、それぞれ幸福を追求しながら生きる権利を有する」という考え方が徹底しており、この考え方を基本に施設が運営されているということでした。

 施設の外観は、私には一目でそれとわかりにくく 、ごく普通の家やアパートのように思えました。施設といえども、これまで住んできた家にできるかぎり近い姿を目指しているようでした。施設内は独り暮らしの方がほとんどで、施設の多くは街の中心からそう離れていない所に位置していました。そのため、子供や孫と比較的頻繁に会うことが可能であるように思えました(もちろん、各家庭の事情によりますが)。別居でも同居でもない新しい親子関係と言えるのではないでしょうか。

 部屋の内部は広めで、車椅子で自由に動けるよう廊下等も広めに設計されています。バス・トイレも各部屋に完備しており、私には豪華マンションのように思えました。部屋には、ホームステイ先の部屋でもよくあった家族の写真や大きなテレビが備えつけられ、まるで自宅で生活されているかのようにとても明るい雰囲気でした。安全面への配慮から、非常通報装置のスイッチが部屋のいたる所にあるなど、部屋にはありとあらゆる工夫された器具が備えつけられていました。また、看護スタッフも多く、お年寄りは安心して生活をされていました。

自然に恵まれた生活環境

 住宅は広大な平地を背景とした素晴らしい環境で 部屋数も多く、周囲には森林や湖があるなど自然環境抜群でした。

 またゴルフ場(年間約2万円のメンバーフィー で、1年中自由に利用できる)をはじめ各種レジャー施設が低料金で利用できます。そのほか、他人の土地でも傷つけない限り自由に使用できる「共同利用権」という権利があり、弁当、飲物持参で自然散策を楽しんでおられます。

労働事情等

 スウェーデンは日本の多くの企業と同じように週休2日制、週40時間労働制を採用しています。休暇は年間5週間で、夏はサマーハウスで過ごし、冬はスキーを楽しむために休暇をとっているようです。失業率は2ケタ台(10〜15%)です。

 ほとんどの女性が職業についており、その多くは パートタイム労働者です。日本のパートタイム労働者と異なるのは、賃金が完全に労働時間に比例している(パートタイム労働者の賃金=正社員の賃金×所定労働時間/40時間)こと、職種が多様であることです。日本では所得税の配偶者控除の問題や、年金が世帯単位で設計されているため、パートタイム労働者の賃金が低く抑えられています。また、職種も補完的業務に限定されています。

 始業時間は朝7時〜8時30分頃が多く、通勤時間も車で10分から20分と短時間で、ましてやラッシュとは無縁です。したがって、帰宅時間が早く(残業 が少ないこともあるが)、夕方からのレジャーも可能です。訪問した5月(サマータイム採用)は午後10時まで明るいほどで、夕方からのゴルフも可能でした。こうした生活サイクルの中にも、「ゆとり」を感じるわけです。

高福祉と高負担

 育児休業期間中(450日)の所得保障90%、児童手当の水準の高さをはじめ、高齢者施設の充実など高福祉が随所に見られました。また、大学教育まで学校はほとんどが国立で無料です。しかし、その反面国民の負担は重く、消費税にいたっては25%にもなります。

 日本もこれからの来るべく高齢化社会、少子化社会を支えるためには、所得税を中心とした税制を資産課税や消費税などの比率を高めた税体系に改めなければ勤労者層の負担がますます重くなるのではないかと思いました。

生産性向上を目指す企業

 スウェーデンは一般に税金が高いと言われていますが、高いのは個人だけではなく、企業に対する税金も同じように高いようです。当然、これは厳しい国際競争を生き残るうえでマイナス材料になります 。したがって、企業経営者の口からは常に「生産性の向上」という言葉が聞かれました。

バイリンガルの国

 人口が少なく、ヨーロッパ各国との往来も激しいため、必然的に英語を学ぶようです。学校教育においても、小学校の低学年から英語を教えますし、テレビ映画はスウェーデン語による吹き替えをせず、もっぱら字幕だけでした。このようにして全国民のバイリンガル化がはかられ、日本の受験英語を中心とした英語教育を根本から見直さなければならないと痛感しました。

 ユンビー(Jungby)のホスト家庭が学校の校長であったこともあり、小学校11〜12才の子供を相手に日本や大阪などについて、1時間ほど話す機会がありました。その中で、子供たちが話す英語の「発音」がよいのと、ものおじせず話す「勇気」に驚きました。最初は、子供相手に時間が持つか心配でしたが、話も盛り上がり、「先生」になったような気分になりました。うれしかったのは、私のためにクラスの子供たちが多くの質問をしてくれたことでした。

最後に

 私たちがスウェーデン滞在中の5月9日、スウェーデンチームが「京阪電車」の本社ビルを訪問し、そのことが社内報に大きく取り上げられるなど私の職場ではビッグニュースになっていました。その彼らと私たち日本チームは4月29日にスウェーデンで会い、再び日本で会えたことはとても幸せでした。

 最後に、この研修を通じてロータリーのモットー 「Be a Friend 」(友達になろう)の言葉の意味を実感することができましたことを、心から感謝して おります。