スウェーデンの老人の保健・医療・福祉サービスについて

中園直樹

(チームリーダー、関西医科大学公衆衛生学教授、守口ロータリー会員)

 特に老人の医療と福祉の問題は世界の各国で、現在から将来的な展望の中で大きな課題として取り組まれている。そしてスウェーデンはこれら老人の福祉において世界で最も進んだシステムを有し、実践してきた国として有名である。

スウェーデンについての概説

 人口は約870万人(ほぼ大阪府の人口)、面積は45万Kuで、わが国の約1.2倍の国土を有する。首都のStockholmの中心人口が約100万人弱で首都圏人口は約150万人。その他の主な都市はGoteborg(44万)、Malmo(24万)などで、その他にUppsala、LinkopingやOrebroなどがある。人口密度は19人/平方キロメートル。わが国の約23分の1で、広大な国土に町が点在している。人口が大阪府とほぼ同数なので大阪府の全人口が大阪府の235倍の広さに点在して住んでいるとイメージしてもらえばよいが、大多数の住民は南部の地方に住んでいる。気候や風土はわが国の北海道と極めてよく似ている。

 産業は、非常に豊かな森林資源、水力資源を基礎に、工業化が進んでいる。90%以上の企業が私企業であるが、国家政府は経済動向をにらんで経済政策へ関与し、産業経済をコントロールしている。

 文化的には、恵まれた自然環境と天然資源、熟練した技術力などを背景にセンスの高い近代的、文明社会である。近年はコンピューターサイエンスなど情報科学と情報通信に国家的に取り組んでいる。

 行政単位は、870万人が1つの中央政府に属し、これが、23のCOUNTY COUNSIL(主に広域医療圏と一致する行政単位)と3つの特別市(Malmo, Gotlad, Goteborg)の計26行政区分に分かれている。従って1つのCOUNTY COUNSILは平均約30-40万人の医療サービスを担っている。これがさらに、より社会経済的な単位と思われるMUNICIPALITY(市の単位と考えられる)に分かれている。

 全国では286のMUNICIPALITYがあって、このMUNICIPALITYが、さらに日々の生活地域単位のKOMMUNEの集合体で構成されている。従って1つのMUNICIPALITYは平均約3万人前後で構成されており、細かな福祉サービスの責任を持っている。

 KOMMUNEはさらに小さな生活地域単位で、身近な日々の生活サービスを提供している。KOMMUNEは、通常数百人から数千人の規模である。

1.人口構成:

 スウェーデンの年齢層別の人口構成は以下の通りである。

 年齢区分が若干異なるが、0-15歳人口は20%でわが国の年少人口(0-14歳)は16.7%、16-64歳人口は63%でわが国の生産年齢人口(15-64歳)は69.8%である。65歳以上の老年人口は18%でわが国は13.5%。わが国よりも高齢化が進んでいる状況である。

 スウェーデンの生産年齢人口層で特徴的な点は、夫婦あるいは男女カップルのほぼ90%が働いていることで男女ほぼ同数が労働人口(退職年齢は65歳で年金受給年齢)であることである。

 経済、特に税の支出の観点からの人口構成は以下の通りである。

1)Public sectorなど地方公共施設勤務などを含めた 公務員 140万人

2)高齢年金生活者 155万人

3)完全失業者 35万人 と 部分失業者 26万人

4)プレ年金者 36万人

5)病気病弱者 23万人

6)乳幼児と子供 160万人

7)私企業勤務労働者 265万人

とされている。従って、1)〜6)の計436万人を7)の265万人で支えるものとされている。

 少し古いが1986年統計資料によれば、GDP(国内総生産)に占める1)〜6)への公共支出の割合の上位5カ国は、

1.アイルランド 54% 

2.スウェーデン 50%

3.イタリア 49.3%

4.米国 45.5%

5.英国 42.8%

の順で、日本は34.5%である。

 1993年の職業別の就業人口(16-64歳)の主なもの上位5つは以下の通りであるが、これは男女を合計した数字である。

1.保健やケアサービスに従事(医療従事者含む)21%

2.商業、サービス業 19%

3.製造販売業 19%

4.銀行、投資、金融関係 10%

5.教育や研究関係 8%

などが上位を占めており、続いて建設建築業、文化事業関係などである。ちなみに失業(18 64歳)に関する資料(1992-94年いずれも10月時点)としては

1992年10月 93年10月 94年10月

完全失業  6%  9%   8%

部分失業  3%  2%   3%

18-24歳の失業 19%   21%  23%

と若年者の失業率は高い(註:雇用保険給与受給)

2.世帯構成:

 スウェーデン全国での世帯構造は以下の通り。

1)男性単独世帯所帯 18%

2)女性単独世帯 22%

3)単独世帯(母子,父子世帯)で

 17歳以下の子供が 同居        4%

4)夫婦のみ世帯で子供が同居せず 30%

5)夫婦と17歳以下の子供が同居 18%

6 ) その他の形態 4 %

(1世帯当たり 2.20 人)

 ちなみにわが国の世帯構造別のデータは以下の通りである。(1世帯当りは2.96人)

単独世帯が22.3%

夫婦のみ世帯が17.7%

夫婦と未婚の子供同居が41.7%

三世代世帯が12.8%

その他が5.6%

 世帯構成の区分が同一でないので単純な比較は出来ないが、家族形態の違いが窺われる。

特徴的なことは子供との同居世帯が少ないこと。また老親との同居形態と思われる三世代所帯のデータが不明であるが、この形態はスウェーデンでは極めて少数と思われる。

3.住宅状況:

 スウェーデンの住宅状況は以下の通りである。

      一戸建て 集合住宅

1)1部屋にキッチン   0.6% 8.7%

2)2部屋にキッチン  1.8% 24.8%

3)3部屋にキッチン  5.7% 21.4%

4)4部屋にキッチン  10.5% 7.2%

5)5部屋以上にキッチン 14.3% 2.1%

6)不詳や記載なし   0.5% 2.3%

但し、1部屋の広さは、わが国と比較にならないくらい大きい。

Swedenの老人関係の福祉、保健、医療関係の法律

●KOMMUNEは次の法律に準拠し老人へ各種のサービスを提供している。

1. SoL(SOCIAL WORK SERVICESを提供する)

2. LSS(PHYSICAL HANDICAPPED、MENTAL HANDICAPPED の人々への保護)

3. HSL(MEDICAL, HOSPITAL SERVICEを保証)

註:スウェーデンでは、ハンディがある部分を補えばその他はまったく同等なので、十分な社会生活や社会貢献ができるというノーマライゼーションの考え方がハンディキャップという概念で捉えられている。

●その政策的原則は

1.安心できる

2.選択肢がある

3.公正である

4.選択肢の決定は個人の意志を尊重する

5. GOOD Q.O.L.をめざしたものである

6.社会とのコンタクトを多くする

 上記の原則の決定の上で最も大事にしているものは、広い階層の人々の参加(participate)と、多くの人に受け入れられる同意(consensus)である!!

KOMMUNEが老人に提供するサービス

1. ホームヘルプサービス

2.警報サービス

3.電話サービス

4.給食配給サービス

5.タクシーサービス

6.声かけサービス

7.輸送サービス

8.親族への相談サービス

●上記サービスを遂行する上でKOMMUNEに以下の義務が掲げられている。

1.親切であること

2.早急に対応すること

3.サービスに的確な情報であること

4.的確な情報を伝達すること

5.約束を守ること

6.包括的なこと

7.話をよく聴くこと

8. 分散型サービスすなわち画一的でなく ,出来るだ け個々に対応されたサービスをめざすこと

●老人のケアや福祉の原理原則は

A.老人の個人を中心に(すなわち個性の尊重と個人の尊厳を第一義的に)

B.老人の家庭での生活(家を最も基本的単位に位置づけ)

C.日々の生活の快適性と利便性を目標に

D.社会性に配慮し、地域密着型で対応すべく

E. ネットワークと、コミュニケーションと、インフォメーションを重要視して包括的に臨むこと

などである

●KOMMUNEレベルで老人へ提供されているシステムは以下の通りである。但し、医療サービスはKOMMUNEの上位組織のCOUNTY COUNSIL(註:行政組織の項を参照。KOMMUNEより広範囲な地域単位を所轄する医療圏と理解すべか)の管轄である。また、一部にはKOMMUNEが提供するサービス以外のいわゆる私企業による住宅サービスがあり、Nursing Homeの約7%、Retirement Homeの2%程度にあるとされるが、建設や提供されるサービスに関してはKOMMUNEの査定基準を充たすこととされている。PUBLIC SECTORの提供するサービス、特にservice building houseは入居待ちが少なくないので、最近では私企業による住宅サービスへの関心や入居が徐々に増えてきている。

HOUSINGサービス

a. Service Building Houses

 年金者が個人あるいは夫婦単位で賃貸契約で居住している。居住基準は整備され個室(1-3部屋とキッチンにシャワー室(Swedenは通常はシャワーで入浴する浴槽は少ない))が原則である。居住者は通常は自立した日常生活をおくっている。

必要によりKOMMUNEよりホームヘルプサービスを受けることがある。

(設備、人員や経費等に関しての事例)

1. KLIPPAN

 老人福祉施設では有名なKOMMUNEである。SERVICE BLOCKと呼ばれる建物で居住基準は高く設定されている。HOUSEの建築はKOMMUNEの要望に呼応してKOMMUNE以外が行い、そのSERVICE BLOCKをKOMMUNEがレンタルし、供給している。生活コストは全て居住老人が年金等から支払う。KOMMUNEからの支出予算(15 Million Kr)は全体(95 Million Kr)の16%である。入居希望老人は空室を待っている状況である。その様な状況であるので、入居条件や優先入居のカテゴリーをKOMMUNEは持っているが、老人のプライバシーの関係もあり機密である。しかし、担当のスタッフが公正に協議して決定しているとのこと。

2. HALMSTAD

 市街地のほぼ中心の利便性のよい所に所在する。従って食堂や喫茶は近隣住民が利用することもある。日々の生活にかかる食費や入浴(浴室を使う、サウナ使用など)等の費用は受益者負担である。サービスハウスの居住者は携帯(腕時計式)の警報アラームを所有して日々の生活での安全が保証されている。呼び出されるアラ−ムはコミュニケーションを求めてのことが少なくない。また、ハウス以外の地域在住の老人家庭への警報アラームサービスと看護婦資格者による声かけ、健康相談サービスも代行している。

b. Retirement Homes

 HOME HELP SERVICEや巡回サービスがなければ自立した生活ができない老人を対象にした共同施設である。居住基準は原則として個人別の個室(1部屋に専用トイレ)で私有の家具を持込む。食事やその他の日々のサービスは施設内の専用スタッフが行う。費用は収入に応じ年金等から徴収される。1991年で800施設34,500室あった。

c. Nursing Home

 自立するための日々のサービスがより必要な老人と医療ケアが必要な老人が対象である。1992年にNursing Homeの31,000床がCOUNTY COUNSIL(医療ケアなど医療サービスを所轄する行政単位)よりKOMMUNEへ、また病院の長期老人病棟よりKOMMUNEのNursing Homeへ移管された。居住基準は病院の2-6人部屋と同様である。ホスピスケア(スウェーデンではガンの末期のケアでなく終末期ケア)、歩行等の不能な老人の短期リハビリ、痴呆老人の日々のサービスと酸素補給や床づれ等の処置など一部に簡単な医療サービスや治療(?)を行う。

経費は収入に応じて利用対象者が原則的に支払う。但し、控除などの上限を設けKOMMUNEなどで負担している。

(設備、人員や経費等に関しての事例)

1. KLISTIANSTAD 

 Nursing HomeのOPALEN(1992年以前は病院であったものをNursing Homeへ転用したもの)痴呆老人施設、リハビリ施設、ホスピス施設を見学した。看護婦、看護婦資格者など有資格者はいるが、十分な数ではなくて、特に夜間深夜は昼間の人数の約半数の体制となる。後に述べる1日当りのコストは単位時間当りの介護の資格者数とその他のスタッフ数で割り出されている。介護やサービスの質で単価が決定される仕組みであるので、質の低下は収入減につながる。かなり人的にも設備的にもレベルはよいのであるが、財政的削減の動向の中でMUNUNCIPALITY(市に相当する)より効率的運営を指導されている。施設側のコストは食費込みで概ね 980 Kr./日(約12,500円)で全てを賄うように指導されている。但し、電話や新聞は個人負担する。

 OPALENは老人25人に対しスタッフ22名(常勤者11名でパートタイム11名で3交代のローテーションを採用)との申請で、スタッフ1人に老人1.1人と査定されている。そこで990 Kr/Bed for 1 Nightで予算が配分される。この990 Krには建物レンタル料を除く人件費、食費など全てを含むものとされる。建物レンタルは病院を転用した為に節約できている。年間予算は 990 Kr/bed × 47 bed × 365 night しかKOMMUNEから支給されないので、施設長は予算の95%でやりくりをしている。

 一方、老人病棟では食費込みで概ね約2倍の1,800 Kr./日のコストがかかる。

 Nursing Homeでの医療連携は当該老人の登録医師(HOUSE DOCTOR)の医師を呼ぶ費用は1訪問当たり120 Kr.(約1500円)で、個人負担である。

2. HALMSTADのNursing Home

 KLISTIANSTADと同様に病院を転用したものであるが、人員や設備等はKLISTIANSTADのOPALENに劣る。身体虚弱、痴呆の進行、それと社会的要因で、開所以来の長期滞在者も少なくない。

3. LJUNGBYのNursing Home

 1-2人部屋で、建築が新しく綺麗である。入居者の約半数が痴呆性老人である。身体的虚弱と痴呆の為に,大半が開設以来の長期滞在者である。特徴的なことは入居者間での会話が殆どなく静寂なことである。HOUSE DOCTORが入居者の中に自分が担当の老人がいるので週1回1-2時間巡回診察する。その他の必要に応じて医師も呼ぶが、有料で自己負担あるは施設負担である。看護婦はは常駐している。作業療法士による音楽訓練などを見学した。作業訓練は午前1.5時間、午後2.5時間行われている。スタッフは作業療法士、理学療法士、看護婦などの一部の有資格者を除き、アシスタントなど助手の無資格者で賃金も低い。

 デイサービスや老人の機能訓練などのサービスも行っており、1994年の利用者は650名であるが、約半数の351名が年間50回(週1回)未満の利用である。

d. group dwelling

 スウェーデンでも近年始まったばかりで、痴呆性老人でより監視が必要な者を集団生活(6 8人)させ、日々の生活を支援している。1993年で7,000人がこのgroup dwellingを行っている。

(設備、人員や経費等に関しての事例)

1. KLIPPANのBagen(アルツハイマー病)

 同程度の病状のアルツハイマー性痴呆患者8名が各個室に居住し、その他は共同の生活場を共有し、専門的スタッフがハウス中央で注意深く観察、指導している。

 ちなみに、スウェーデンの痴呆性老人のデータは以下の通り。

・有病率 65歳以上で 5% 80歳以上の重症痴呆患者の15-20%は施設にいる。

・罹患率 65歳で0.01%で加齢と共に上昇し、80歳では3%。

老人ケア

a. HOME HEALTH CARE

 1992年のAEDEL REFORMによりHOME HEALTH CAREの責任を任された地域保健婦が、在宅の老人でケアが必要な老人家庭を訪問する。必要に応じて地域保健婦はDISTRICT HEALTH CARE CENTERの医師に連絡する。状況によってはセンターの医師またはHOUSE DOCTORが診察に訪れる。

 地域保健婦は老人宅への訪問看護サービスとセンターでのケアを受け持つ。また、看護婦有資格者はHOME CALL(電話での声かけや健康状況の問い合わせ)サービスを受け持つ。

b. DISTRICT HEALTH CARE CENTERでのケア

 DISTRICT HEALTH CARE CENTERの地域保健婦は一部の注射や糖尿病等の指導と処置のいくつかは行うことが認められている。 DISTRICT HEALTH CARE CENTER(複数人の医師が常駐している)への来所でのヘルスケアは看護婦が主に行い、医師は従で、一部の医療サービスと医療相談を医師が担当している。

COUNTY COUNSILとの合意でKOMMUNEは在宅老人への包括的な初期医療も可能とされている。

老人病棟

 1992年のAEDEL REFORMにより、病院での老人の長期、短期入院も出来る限り少なくしようとの考えに基づき、リハビリに重点を移し、入院より在宅を重視した。それを契機にベット数も抑える方針を決定し、実行中である。1992年に全国で33,300ベット(65歳以上の総人口約153万人の2%に相当)の削減を計画した。

(設備、人員や経費に関する事例)

COUNTY HOSPITAL HALMSTADのリハビリ病棟と施設

 このCOUNTY COUNSIL管轄地区には2つの地区中核病院を有する。本院は南部の中核病院で800床の総合病院である。特に進んだ設備は見あたらない。スタッフに関しても、特筆するような体制とは思われない。患者は脳卒中の後遺症のリハビリが基本としてある。脳卒中はかなり早期(見学例は片麻痺発症後4週目より)からリハビリを行っている。その他に多発性硬化症等の神経筋疾患のリハビリを行っているとのことであったが、患者もマニュアルも見学できなかった。但し、患者の搬送はタクシーサービスがよく利用されており、お気に入りのホームヘルパーを指名してリハビリ中の家事をしてもらっているとのことであった。

スウェーデンの医療や病院について

 1928年発効の病院法で、国は住民へ医療サービスを行う義務がある。原則として医療サービスはCOUNTY COUNSILが掌握する。

 スウェーデン 870万人の国民の医療には以下の3レベルがある。

1. LOCAL LEVEL 5,000-50,000住民 HOUSE DOCTORと病院、診療所

2. COUNTY LEVEL 30万人前後の住民 地区内の複数の中核病院

3. REGIONAL LEVEL 100-110万人の住民 6つの医科大学病院との協力を得て

医療従事者などの医療資源について

 スウェーデン国内の医師数は26,100で、うち35%が女性であり、近年は医師総数も女性医師数も増えている。従って、昨年は600名の医師が失業(?: NOT GET JOBと示されている)との資料あり。国内には6医科大学(Umea、Stockholm、Uppsala、Linkoping、Goteborg、Lund)があり、年間の医学生定員は1045名である。現在学生定員数の調整を検討中で、徐々にトータルの医師数は削減している。

 ちなみに医師数ではスウェーデン国民340人に医師1名で、わが国は国民600人に医師1名である。医学生定員はスウェーデンは国民1万対1.2人に対し、わが国は国民1万対0.6人と医師数も医学生数もスウェーデンが国民1人当たりでは多くて、後述の収入の面でも医師は必ずしも恵まれた職業とは考えられていない。

 教育年限は5.5年間で、その後に病院臨床研修が1.75年間が義務づけられている。その後に最低5年以上の専門医修練を行い、専門医種へすすむ道が開かれている。医学部への入学は原則的にはGYMN(高校教育課程)での成績で志望医科大学の定員以内であれば入学が可能であるが、要求されるGYMN時代のポイント(単位とその成績で、わが国の内申点に相当するのでは)は最上級とされている。

●ちなみに16-74歳人口が対象の教育レベルに関する資料(1994年1月1日現在)によると

1.GYMNを終了したレベル 44%

2.義務教育を終了した 34%

3.大学等の上級高等教育 20%

4.不明、答えず 3%

年間の医療費はG.N.P.の8.8%を占めており、病床数と医師数が多い地区ほど医療費が多い。

●医師、看護婦等の年収について

(税込み手取り):民間保険会社資料による

新人医師 200,000 Kr.

勤務医医長 400-450,000 Kr.

勤務医部長 500,000 Kr.

大学教授臨床医(著名な) 550-600,000 Kr.

歯科看護婦 160,000 Kr.

医科看護婦 180,000 Kr.

看護助手 150,000 Kr.

●ちなみに一般工場労働者 160-190,000 Kr.参考までに為替レートは1 Kr.=12-13円であるが、購買力平価は1 Kr.=18-20円と経済学資料では一般にみなされているようである。

病院見学

1. VAXJO

 VAXJO中央病院で、市内中心部にある地区中核病院の一つである。中央検査部門の検体のコンピューター登録システムはみるべきものがある。

病原体検査はウイルスの分離は出来ない。

2. KLISTIANSTAD

 COUNTY COUNSILの中核病院である。腫瘍科と放射線治療部門はLund大学へ移送している。形成外科はないが他の診療科は揃っている。660床の総合病院である。

3. HASSELEHOLM

 地区中核病院の一つであるが、277床を有するが内科と外科、整形外科などが中心。小児科、産婦人科、耳鼻咽喉科、眼科はない。地域内の人工透析のセンター的な役割を果たしているが、地域内の透析の登録患者は30数人である。透析器機のメーカーGAMBROの発祥の地とのこと。

4. HALMSTAD

 COUNTY COUNSIL内に2つの地区中核病院があり、南部の中核病院である。800床を有する大病院で殆ど全科が機能しているGoteborg大学との協力病院である。

5. LJUNGBY

 地区病院であるが、92年のADEL REFORMの規制を受け、長期入院ベッド削減を率先して実施(最高責任者が医師でない行政官:女性)しているので、約200床のうち1/4の50床程度しか機能していない。BASIC CAREと称するHOUSE DOCTOR BUILDINGが併設されており、病院機能と地域保健医療サービスを分化しつつある。救急医療部門は残存させる方向である。

その他

●KLISTIANSTADのCOUNTY COUNSIL所轄の医療サービス等のコストに関する資料

1993年のOPERATING COST(支出)の内訳

1)COUNTYとREGIONAL LEVELの医療ケアコス ト 60%

2)初期医療コストと歯科サービスコスト      14+3=17%

3)知的発育遅延と身体障害者へのサービスコスト  13%

4)看護婦等の教育と訓練コスト 5%

5)事務や登録等の行政経費 3%

6)救急医療などのサービスコスト 2%

KLISTIANSTADのCOUNTY COUNSIL所轄の

医療サービスと一部の保健サービスに支出したコスト

1)KLISTIANSTAD COUNTY管内住民の年齢層別 住民一人当たりの支出

0- 4歳層 6274 Kr. ( 5年齢)

5-14歳層 3360 Kr. (10年齢)

15-44歳層 5707 Kr. (30年齢)

45-64歳層 8040 Kr. (20年齢)

65-74歳層 14024 Kr. (10年齢)

75-79歳層 20347 Kr. ( 5年齢)

80-84歳層 24832 Kr. ( 5年齢)

85歳以上 30183 Kr.

年齢層が上昇するに従って、一人当たりのコストが上昇している。特に、65歳以降ではその上昇は顕著で、わが国も同様な傾向にある。医療サービスはスウエーデンでも高齢者がその主な対象になっている為である。

2. KLISTIANSTAD COUNTY管内の年齢層別の医療サービスの総コスト*

*総コスト=(一人当たりのコスト x 年齢層別人口)の各年齢層の和

 管内人口は15-44歳層が最も多く約11万人で、次いで45-64歳層が約6万人である。

 管内の医療サービスの総コストを年齢層別にみると、人口が最も多い15-44歳層が600000 SKr.(1 SKr.=1000 Kr.)を超える支出で最も多い。次ぎに45-64歳層で500000 SKr.を支出しており、それに続くのが65-74歳層で400000 SKr.を超える支出である。これら3年齢層で全体の64%を支出していた。

 従って医療サービスの総コストの削減や重点的な配分を考えれば、65歳以上の高齢者の医療サービスの見直しと15-44歳層への医療サービスの質の見直しを検討している。

 すなわち、治療より疾病予防に重点をおく。地区内の複数の中核病院で行うCOUNTY LEVELのケアおよび医療サービスと国内6つの医科大学病院との協力を得て行うその後のREGIONAL LEVELの医療よりも、その以前のLOCAL LEVELのプライマリケアを重視する方向である。そして、LOCAL LEVELでのプライマリケアの担い手として以下の組織を充実活用するような方策に転換しつつある。

(1)HOUSE DOCTORとDISTRICT NURSING CENTERの効率的機能と連携 

(2)CARE CENTERの活用 

(3)乳児と母子保護サービスの徹底 

(4)Nursing Homeの充実、など

(参考)

スウェーデン国民1人当たりの国家歳出予算(1993年)は以下の通りである。

1.老人へのケア、サービス、医療のコスト 6,200 Kr.

2.義務教育等の基礎教育へ 5,100 Kr.

3.保育育児等の子供へのサービス 4,000 Kr.

4.個人あるいは家族ケア、サービス 2,100 Kr.

5.文化、教養関係費への援助支出 2,000 Kr.

6. GYMNなどの高等教育へ 1,900 Kr.

7.成人教育および職業教育への 400 Kr.

8.救急、消防、防災関係へ 300 Kr.

9.失業者への雇用サービス関係予算へ 300 Kr.

10.その他 50 Kr.

付録・キーワードで理解するスウェーデン
 6週間弱のスウェーデン滞在経験から次のキーワードでスウェーデンを理解したい。

 1)広大な土地(日本の1.2倍の国土)

 2)少ない人口(870万人で大阪府人口と同じ)

 3)北極圏へも入る寒冷地(冬の生活が基盤に)

 4)森と湖が豊かな自然と天然資源(水力、林業、漁業、鉄鉱石)

 5)デンマークと歴史的領土争い

 6)東欧、ソ連の社会主義諸国が隣接

 7)1800年代アメリカへの移民の歴史

 8)第二次大戦では中立を維持

 9)夏と太陽への憧れ

10)勤勉と高い教育水準と職能制度

などである。

 大阪府の235倍の面積に、緯度は北海道より北で、北海道より厳しい寒冷地気候で、長い長い冬に閉ざされた短い夏、豊富な水力と森林資源を背景に北海道の5.4倍の広さに広がる森と湖に恵まれた北の大地に、大阪府の全人口が住んでいると想像してみて下さい。肥沃なのは南部で今回訪問のRI第2400地区しかない。この様な広大な寒冷地に数百から数万人の小規模の地域共同体が点在しているとしたら、どの様な社会になるかを考えてみて下さい。

●地域特性を活かした産業が振興される。それは人口集約的でないもの、少人数でも可能な様に大型機械化するはず(林業、製紙業、自動車のボルボやサーブ)。広大な土地なので情報や連絡通信は日常生活に必須である(携帯電話のエリクソン、コンピュータ産業と情報科学は、国家的に振興している)。

●中世からデンマークとの戦争で領土支配権が双方行ったり来たりしていたので、帰属はどちらであろうとも生活第一の地域密着型の地域共同体が近代行政組織以前に出来上がっていた。お隣が遠いので相互扶助の精神が日々の生活で自然発生的に組織化される。この様な集合体が国家をなすので、統制も中央集権より地方分権が相応しい地域密着型になる。広大な国家であるので、指揮系統は通信を整備したコンピュータ化してオンライン化しなければ非能率的である。そこで人口数百人の小さな町の図書館から中央政府や地区行政官庁にコンピュータで容易にアクセス出来る様にし、納税者番号および国民背番号化が実施されている。規模的にも可能な人口である。従って福祉サ−ビスが必要なヒトへの情報が的確に把握できる。

●また1700-1800年代に、経済的困窮からアメリカに移民した歴史があるので、その際に戸籍登録業務がしっかりスタートしており、登録にあまり抵抗感がない。多くの祖先が国外に移住したので、他国からの移民の受け入れにも抵抗がなかった。そしてこの人口登録制から、来るべき高齢化社会への移行と若年人口の減少を危倶し、1960年に当時のスウェーデンは経済力も充分であったので、社会の高齢化阻止と労働人口の確保のため以下の国家的政策を構築した。

1)出生率を上げるために、女性への手厚い制度と児童施策を充実した。人口は力なり。

2)生産年齢人口として女性の職場、社会進出を強力に支援し、労働人口の社会保障制度を拡充した。また、労働力として外国からの移民受入れ体制を整備した。従って職場や社会的な地位で男女同権の確立と外国人の保護など、人権の尊重を社会的同意とした。派生する問題として障害者や社会的弱者もハンディの部分さえ補えば立派な生産的個人であるというノーマライゼイションが定着した。また、基本的にはキリスト教の性善説に立脚しており、お隣が遠いので互いに親切で、隣人愛に富んだ信頼関係を重視している。

3)女性の職場、社会進出を妨げないために、老人の介護や福祉、育児保育など、の施設整備と人的サービスを国家的に取り組んだ。そのために国民は高負担高福祉を議論の上に選択した。税制的、政策的にも国民的合意が得やすい人口規模であった。また、国内に無理なく社会資本を充実させうる財政的規模と国民総生産の経済力が成功の秘訣であった。

4)生活している豊かな自然を保護するために環境問題には熱心である。ゴミ等資源リサイクル化やエネルギー問題には敏感で、自然との共生を第一義にしている。長い冬の後に訪れる春の息吹と太陽の光に憧れ、そのイメ−ジに代表される様に万物の生命を大事にする。

5)ドイツと戦った隣国デンマークの悲劇を目の当たりにし、国際平和には熱心で隣国のソ連の脅威にも配慮し中立的平和外交の推進と国際貢献で寄与する外交政策をとっている。

6)生産年齢人口に対する職能教育や社会人や老人の再教育や生涯教育は、労働力確保と生産性向上の為にも国家的事業として取組んだ。

 以上の国家的施策がこの国を福祉国家として世界的に有名にした。しかし、その後は社会保障費と福祉事業費が年々膨らんで国家財政を圧迫してきた。近年はこれらを満足させるにふさわしい経済力と財政力ではなく、見直しをしている時で、政権が国民にその選択を委ねつつある。それらの財源の一つであるスウェーデンの一般消費税は現在25%である。また、年金生活者155万、完全失業35万、部分失業26万、プレ年金者36万、病気病弱者23万、乳幼児と子供160万人への支出が国内総生産の50%を占める。この割合の多さはアイルランドに次いで世界2位で、ちなみにわが国は10年前のデータでは34.5%である。